空心手帳/八木詠美
▫️あらすじ
「だから私は嘘を持つことにしたの」日々押し付けられる雑務にキレてつい「妊娠してます」と口走った柴田が送る奇妙な妊婦ライフ。第36回太宰治賞受賞作にして、昨年刊行された英語版がNYタイムズやニューヨーク公共図書館の今年の収穫に挙げられるなど話題となり、現在、世界14ヶ国語で翻訳進行中の鮮烈デビュー作が待望の文庫化!
▫️感想
主人公の柴田は、職場で妊娠していないのに“している”と嘘をつき、そこから偽「妊娠ライフ」が始まる。というぶっ飛んだ設定で物語は描かれている。しかし、柴田は咄嗟の嘘に焦りや不安を感じることなく、妊婦専用のエアロビに通ったり、妊婦さん同士のコミュニティに入り込んだりなど、「妊娠ライフ」を楽しんでいる姿が奇妙であり、読み進めていくにつれて実は主人公のお腹の中に赤ちゃんがいるのではないかと錯覚が生まれるほどであった。職場内に存在する“女性の仕事”(お茶だしやお菓子を配るなど)に疑問を呈す場面は共感しかなく、日常のジェンダー問題を解く、多くの現代人に読んでほしい一冊。
▫️心に残った一行
P17 「しかしこうして時間ができてから誰もいない部屋で音楽をかけると、どうやって聴けばいいのかわからなかった。姿の見えないアーティストが一生懸命歌っている間、どこに視線をやればいいのか、どんな表情をしていればいいのかわからない。大人数のバンドだとさらに居心地が悪い。趣味は音楽鑑賞だという人はどうしているんだろう。目をつぶって黙って聴いているんだろうか、宙を眺めながら頭や腰を振っているんだろうか。30年ちょっと生きているが、自分がこんなにも何も知らないことを初めて知る。
P129 「もしかしたら誰かと家族になるとは、互いの存在を担保して忘れ合わないような環境を作ることなのかもしれない、そんなことを意識すらしないうちに。」
P169 「そういえば、あの忘年会は本当にお金の無駄だった。一人暮らしを始めたときからずっと思っているけど、節約の第一歩は行きたくもない飲み会に行かないことだと思う。時間もお金も無駄にしながら、どうして親しくもない人のだらだらした話を聞いて、しかもこっちのプライベートについて聞かれなきゃいけないんだろう。
▫️こんな人におすすめ
・妊娠、出産に不安がある方
・女性の生き方に関して考えたい方
・ぶっ飛んだ、奇妙な設定の物語を読みたい方
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