ブラザーズ・ブラジャー/佐原ひかり
▫️あらすじ
父の再婚で新しい母・瞳子さんと弟・晴彦と暮らすことになった、高校一年生のちぐさ。ある日自宅で晴彦がブラジャーを着けているところに遭遇。おしゃれだからブラが好きという彼を家族として「理解」しようとするがーー?「ふつう」よりも「好き」を大切にしたい全ての人へ贈る、今最も読むべき青春小説!第二回氷室冴子青春文学賞大賞作。
▫️感想
物語は「再婚して弟になった中3の男の子は、ブラジャーを着けるのが好き」というテーマが軸で進んでいく。それだけ聞くと、“癖”に考えが行きがちだが、弟である晴彦はただブラジャーの形や色づかい、繊細な装飾など、装着品のひとつとして好んでいる。その考えを理解する(最初は分かったふりをしてしまう)主人公のちぐさ。ちぐさは彼氏や親友に違う考えを持っていても反論が出来ない。何か言い返したくても笑って受け流してしまう。そんなちぐさの性格が自分の学生時代の思い出を映し出しているようで深く共感してしまった。だからこそ、好きなものを純粋に「好き」と相手に伝えることができる晴彦を羨ましく感じてしまうちぐさの感覚には頷くしかなかった。
その他にも物語の後半には「進路」の話が登場したりと、学生の時誰もがぶつかる問題にも触れられている。将来自分は何になりたいのか、自分は今何が好きなのか、“わからない”という感情がぴったりなちぐさの現状には同感しかなく、最初から最後まで学生時代の自分と照らし合わせて読み進めることができた。
時に感情をむき出しにいてぶつかり合うちぐさと晴彦。しかし決して相手を否定しない姿勢が大人だなと感じる。学生時代特有の不安定で脆い感情であったり、大人が想像しているよりも子どもは知らないうちに成長していることに気づかせてくれる様子であったり、現代の学生を映し出す新しい青春小説であった。
▫️心に残った一行
P66 「瞳子さんは、晴彦の親だ。晴彦は、瞳子さんのこどもだ。その意味をはき違えるのは、いつだって親のほうだ。
P80 「口にするとき、彼女たちはいつも、すっ、と視線を下げる。視線で、人を落とす。輪の外、じゃない。あるのは、輪と、輪の下だ。足下の感覚がないまま、手をつなぎあって、ふわふわと飛んでいる。翼を持つ子たちに手を振られて、私は飛べている。そつなく、浮かんでいられる。
P204 「おれは、好きだって気持ちを大事にしたい。正しくなくても、合っていなくても、好き、を手放したくない。うそにしたくない。苦しみも悔しさも、嫌いになりそうな気持ちもぜんぶひっくるめて、好きなものを大事にしたい。それを好きだって思う、自分の気持ちを大事にして、生きていきたいんだ。」
▫️こんな人におすすめ
・何か一つでも「好き」なものがある方
・学生、また学生に関わる方すべて(学生を子どもに持つ親や教員など)
・新しい青春小説を読みたい方