BANANA FISH
"BANANA FISH"は、類い稀ない美貌と天才的頭脳を持つが故に、自分の意思とは全く関係なく求められ奪われ傷付けられてきたアッシュが純真無垢な英二と出会い、英二の愛に包まれ初めて心が満たされる物語です。
魂の半身に出会い、愛し愛されて傷付いた心が癒されていく少年達。
英二といることで初めて安心を得たアッシュ。
英二には本音を吐き出すことができ、英二の前では涙を流すことができたアッシュ。
キスやセックスをすることだけが愛ではないと教えてくれます。
アッシュは19歳で英二を置いて亡くなってしまいますが、長い長い時間を掛けて英二はアッシュの思い出と共に生きていくことを選択します。
私が"BANANA FISH"に出会ったのは中学の終わりの頃でした。
リヴァー•フェニックスが大好きだったからか、その絵柄に惚れ込み、どうしても読んでみたくて、高校受験が終わったらこっそり全巻買うぞと決めたのです。
私の家は厳しくて漫画を買うことが許されていませんでした。
両親に内緒で初めて買った漫画"BANANA FISH"は、私の成長の象徴のひとつでもあります。
私は"BANANA FISH"をブロマンスだとかBLだとかそのような枠に入れる必要はないのではないかと思っています。
アッシュと英二の関係は、シンの言う通り、"魂の奥深いところで結びついていた"のだと思います。
英二の魂はいつもアッシュと共にあるのです。
親友、家族、恋人、ひとつの言葉で表すのが難しい関係です。
私は"魂の半身"と表現したいと思います。
この世で自分の"魂の半身"に出会える人間がどれだけいるでしょうか。
神様はそれほど親切ではなく、数少ない人にしか"魂の半身"を用意してくれないですし、どこかに"魂の半身"が存在していたとしても巡り会えずに終わる人もいるでしょう。
子供の頃は結婚相手が運命の人だと思っていましたが、大人になるとそういうわけでもないことが分かります。
"魂の半身"と出会うってどんな気分なんでしょうか。
アッシュと英二は"魂の半身"を見つけ、ひとつの魂となった幸運な人間であるともいえます。
"もしアッシュが生きていたら2人は性的な関係になっていただろう"と吉田秋生先生がおっしゃっていたそうです。
先に恋愛感情を自覚して悶々と悩むアッシュと初めは驚くけれど気持ちを真っ直ぐに受け入れる英二を想像してしまいます。
それとも、ある夜、何も言わず、ただ見つめ合っただけで、そっと一線を越えるのでしょうか。
性加害を受け続けていたアッシュとあまり性的なことに興味がなさそうな英二には最高に幸せなセックスをして欲しい。
私が高校生の時に"BANANA FISH"は完結しました。
子供心に、悲しいけれど、"美しく幸せな終わり"だと思いました。
死を悟ったアッシュは静かで落ち着けるお気に入りの図書館に行って、英二からの手紙を何度も読み、英二の無償の愛に包まれて亡くなります。
まだ高校生でしたから、ラオを恨んだり、シンがラオの誤解を解いていればと思ったりもしましたが、やはりこの終わり方しかないのです。
"BANANA FISH"は後日談の"光の庭"まで読んで真の完結といえます。
幸せに包まれてアッシュが亡くなった後、残された英二はどれほどつらかったことでしょうか。
ひとつに補完され満たされた魂が半分失われたのです。
長い間、後悔と苦しみと悲しみの中にいた英二。
7年分の歳を取ったけれど、アッシュが亡くなってから英二の時間は止まっているように見えました。
優しく穏やかなところは一見変わりませんが、彼の表情は確実に陰っていて、どことなく寂しく儚げな印象を受けました。
英二は"光の庭"でやっとアッシュの死を受け入れ始めることができます。
ようやくシンに本心を吐露し、英二の優しさはシンの心を少しだけ軽くします。
英二は長い時間を掛けて少しずつ少しずつ前進を始め、アッシュの思い出と共に生きるのです。
私は彼の純粋さと強さにまた感動するのです。
英二の写真集"NEW YORK SENSE"を見ると、"光の庭"から5年後、更に少しずつ前を向こうとしている彼を感じることができます。
28歳になった英二の横に26歳になったアッシュがいて、くだらないことで笑ったり口喧嘩していたらいいのになと思うこともあります。
けれど、たとえ姿は見えなくても、きっと英二の横にはアッシュがいるのでしょう、永遠に。