『Love song from the World』の話
Secret Messenger『Love song from the World』
【web】https://lsfw2024.tumblr.com/
【CD】https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=2356923【DL版】https://secretmessenger.booth.pm/items/5212109
コンセプトや世界観の検討にはじまり、6曲ほど歌詞を書きましたので、自分用の備忘録を残します。最終的には、Secret MessengerのYuyさんに全体感を取りまとめていただいたので、あくまで私個人のお気持ちとして。
tr.2 アルストロメリア
誰かを「救う」というのはかなり身勝手な願望で。教えるとか、伝えるとか、愛するとか、全部そうだけど。「あなたのために」の独善を自覚するのは難しい。
そこに関係性の勾配が加わる。親と子、教師と生徒、医者と患者。社会と制度によって正しさを担保された私達は、すっかり誤読してしまう。一度は気づいたはずなのに。全てがフィクションでしかないことに気づいて、思い悩んだはずなのに。
私たちはずっと、手を引いて、どこかへ連れて行って欲しいだけなんだ。けれど、手を引いてくれるのは、己の身勝手さに無自覚な人か、自覚した上で無責任に(人生の責任なんて、誰にも取れやしないので)なれる人か。
僕は君がもう子どもではないことを知っているし、君が口にする明るい未来を信じられるほど子どもでもない。けれど、君が手を伸ばしてくれるなら、君がそれを望むなら、僕は君についていく。「あなたのために」ついていく。
The Cats - Take Me With You
Pain of Salvation - Ashes
橋本紡 - 半分の月がのぼる空
tr.3 Blue Star
疑う余地なく守るべきものは、この世にいくつか存在する。例えば、青い星とか。
乱数調整、個体厳選。美しい個体を引くために無数の試行錯誤を繰り返す「努力」は、ゲームのデータでは許されるけれど、生身の人間では許されない。私達を許さないのは、社会や制度といったフィクションなので、異なるフィクションの持ち主であれば、許せてしまう。
君が僕に命じたのは、君自身の個体厳選。僕が何も知らない無数の君たちを道具のように消費することを、君は許せてしまう。けれど、僕は、君の道具として個体厳選をする僕自身を許せるだろうか。許したり、許さなかったりして、良いのだろうか。
Creedence Clearwater Revival - Someday Never Comes
クリストファー・ノーラン - TENET
tr.5 空の向こうの君へ
「セカイ系」と引くと、キミとボクの矮小な関係性が世界の命運を左右する、などと解説されている。実際、社会や制度とのしがらみを解きほぐしていくと、私達が世界と呼ぶのは個人的な人間関係だけになる。
それだけで良い、自分にはそれしか要らない、と言うと、大人たちに怒られる。矮小な関係同士が重なり合って、ひとつの大きなフィクションを形作っているし、大きなフィクションの中で矮小な関係がどのようにあるべきか、規定される。無数の関係性のそれぞれに優劣はない。たとえば、神に招かれたとしても、応えない自由はある。そして、後悔する自由も。
君が何になるか、僕が何を願うか。選択は、社会でも、大人でも、神様でもなく、僕たち各々に委ねられている。
Pain of Salvation - The Perfect Element
カタリスト - デイグラシアの羅針盤
tr.6 群青の終わり
自分が自分を許せないのと同じように、誰かにも自分を許してほしくない。何故ならば、許されない罪を背負うことこそが、自分自身が自分自身である証明だから。
けれど、実際はどうだろう。他人は自分が思うほどに、私自身のことを憎んだり、恨んだりしてはくれない。時が経てば経つほどに、人は変わっていく。決して忘れないと誓った想いでさえも、温度は変わってしまう。たとえ私やあなたが変わらずに居たとしても、世界の方は同じままでは居られない。
君を魔女から守るために僕はやってきた。けれど、もう魔女なんていない。そこにいるのは、弱った老婆だけ。
エミリー・ブロンテ - 嵐が丘
森博嗣 - 四季「春」
tr.10 あの日の失くしもの
ああなりたい、こうなりたいと、抱いた夢は、誰のものだったのだろう。誰かが羨ましくて、誰かに羨ましいと思われたくて、間違えないように正しい道を選ぶようにして。たどり着いた場所は、本当に望んだ場所だったのだろうか。
すべてがフィクションだと気づいた時に、私達は選択を迫られる。つまり、このフィクションを構成する側に回るのか、破壊する側に回るのか。現実を生きる私達は、フィクションへの向き合い方を決めて、社会や制度に言及したり、しなかったりする。
けれど、この物語は現実ではない。
君を救うためには、その他の全てを失わなければならない。トレードオフだ。言い換えれば、その他の全てを諦められれば、たった一人の君を救うことが出来る。僕にとって、それは簡単な選択だ。
Cat Stevens - Moonshadow
新海誠 - 天気の子
tr.11 Love song from the World
大きなフィクションと私的な関係性との重なり合い、誰かの我儘と私の我儘の狭間で、私達は常に問われている。私達自身の本当の意志とは何か。何を望み、何を諦めるのか。私は私で在りながら、変わり続けて変わらずにいられるのか。
「銀の弾丸を手に入れたら」という夢物語は、あくまで思考実験でしかなくて、私達は世界を救えないし、どんな代償を支払うと意気込んでも、俎上に載せてもらうことすらできない。理不尽な災厄に襲われても、社会や制度からは逃れられないまま、何を失うこともできずに、生き残った私達の人生は続いていく。
けれど、もしも、本当に銀の弾丸を手に入れたなら、私達は【少女】と同じように自分を犠牲にして世界を救おうとするかもしれない。あるいは、【少年】と同じように世界を犠牲にしてでも誰かを救おうとするかもしれない。
私達、つまり、私も、あなたも、魔女も。
たとえ全てが独善で、無責任で、過ちばかりで、後悔ばかりであっても、世界は捨てたものではないと、私達は信じている。
終わり。
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