雑文「冬ピリカグランプリ、特賞いただきました」
初めて降りる駅で用事に向かう朝、スマホの通知が鳴った。noteらしい。誰かコメントでもつけてくれたのか、と思ってポケットに手を突っ込む。
冬ピリカグランプリ。
ピリカさんが企画された、「あかり」をテーマにした1200字の短編小説を募集したグランプリだ。誰でも参加できる企画だったので、僕も短編小説を応募していたのだ。その「受賞者発表!!」の記事で、僕の記事がリンクされている。これはもしや。
ドキドキする心を、時計の表示が止める。用事の時間だ。どんな内容なのか、本当に入賞したのか、分からないまま用事に向かった。
用事が終わったあと、静まっていた心臓がまた賑やかになる。ドキドキしながらスマホの通知に触れた。
光栄なことに、最高賞である特賞を頂いていた。
応募作品数は133作品にも上ったらしい。その中で選んでいただいた。しかも、毎日ショートショート作品をアップするという偉業を続けておられる小牧幸助さんの素敵な講評つき。
嬉しさと照れとなんか分からない感情に満たされた僕は、小さく跳ねた。都会の駅の人ごみの中でだ。ずいぶん奇妙に映ったことだろう。
1年の始まりに、とても嬉しい出来事。noteが楽しい。作品を書いて、誰かが読んでくれて、その誰かの心に少しでも「あかり」が灯ってくれたなら、とっても素敵なことだ。
ピリカさん、審査員の方々、読んでくださった皆さま。
誠にありがとうございました。
「灯りに向けて進め」作品解説
という訳で、拙作が素敵な賞を頂いてしまいました。
賞を頂いたのはこちらの短編小説「灯りに向けて進め」
ここでは少し、作品ができるまでの過程を紹介したいと思います。
今回はまず、「あかり」というテーマと「心にぽっ、とあかりが灯るような内容の作品」という企画の主旨に手こずりました。
僕は普段、結構暗い作品だったり、結末のどんでん返しの面白さを中心に据えたショートショートだったりを書いていることが多いのです。この優しいテーマのアイデアが全く出てこない。
年末。締め切りは1月3日なのに、アイデアも何も思いつかないまま、あっけなく除夜の鐘は鳴りました。
元日の夜。主催のピリカさんに「冬ピリカ、参加させてもらいますね」と宣言していたこともあり、実家の布団で寝転びながら流石にそろそろ考えなければと思って、頭を捻っていました。
そこで浮かんだモチーフが「灯台」。
灯台がメインにくれば、間違いなくテーマの「あかり」に沿った作品になる。灯台のあかりを目指して進む船乗りの話だろうか。いや、それではありきたりだ。灯台を管理する人の話とか? でも僕としては、少し現実とズレた、不思議な世界観を描きたい。
「灯台の灯りは、実は光る人間が放っている光なのだ」という展開にたどり着いたのは、灯台というモチーフを思いついて1時間後。これは面白そう。今度は数分で描きたい設定やストーリーが溢れてきました。これで書き始められる!
次に僕を苦しめたのは、1200字の壁でした。
1月2日。元旦の夜に思いついたストーリーや設定を文章に落とし込み始めた僕は愕然とします。書きたい内容の5分の1も進まないまま、1200字は通り過ぎました。
元々はもう少し、発光人間の人生全体にスポットを当てた話でした。設定も盛りだくさん。でも1200字に落とし込むには、何か「切り口」が必要だ。彼の人生を際立たせるような、鮮烈な「切り口」。
選んだのは、恋でした。これが冒頭の一文に繋がります。冒頭で宣言しないと、また物語が膨らんでしまうからです。
ここでようやく方向性が固まり、1月2日のうちに一度1200字を書き上げます。ただ、それでも無理矢理に押し込んだような、窮屈な1200字。これではダメだ。
1月3日。ストーリーは完成しているけれど、そのストーリーを最も輝かせる1200字が必要だ。大胆に削り、繊細に積み上げる。その作業をひたすら続け、ようやく完成したのは夜でした。
講評で小牧さんに褒めていただいた「潔い語り口」は、1200字の文字制限が生み出した副産物のように思います。
そんな様々な運や偶然も重なり、また、小説はやはり主観の世界ですので、審査員の方にたまたま気に入っていただけたことも重なり、今回は賞をいただけました。
今後も楽しい、時には暗い、時には笑顔を届けながら、時には苦痛で刺しにいく。そんな小説を書いていきたいと思います。ぜひ、ご贔屓に。
(了)