【エッセイ】陳腐と言いたい
高校に入学し、部活は先輩が少なくて楽そうだということで、美術部に入った。
初めての作品は、ミロのヴィーナスの石膏像を、木炭デッサンだった。
パンの白く、柔らかい部分を指先で練って消しゴム代わりにして描いていく。
見たままを描くことは難しく、でも楽しかった。
こうかな、どうしようかなと考え、自己対話をすることを覚えた。
こんなに集中し、挑戦していけるものに出会えるとは思ってなかった。ただ、楽しかった。
ゴールデンウィークをすぎた頃、紙に木炭の炭が名乗らなくなって、ぼそぼそとしてきた。
顧問の先生に「先生、描けなくなりました」と、伝えたら「あんだけ描けば乗らなくなる。何時やめるかみていた。普通は、もっと前に描くのを辞めるもんだ」なんてことを言われた。
要するに、人よりも描きすぎて紙が悲鳴をあげて降参したようなもんだ。
私は諦めない心を手に入れたようだ。
1ヶ月描き続けた初めてのデッサンを自宅に持ち帰り、家族に見せた。
たまたま近所の人がいたが、その人も含めて褒めて貰えた。ただ、父は一言「俺の方が感性がある」と言った。
だったら1ヶ月、描いてみてくだされ。ひとつの事に真摯に向き合って泣き言もなにも言わずにやり遂げてみてから言ってもらいたいものだ。
父との確執のきっかけはこれだったのかもしれない。