スラスト禁止の舞台裏
■リラクゼーションの適正化に関する自主基準…その4
自主基準は全部で24条からなり、結構なボリュームがあります。
ほとんどは常識的に答えられるものなので、一読しておく必要はありますが、さほど恐れることはありません。
覚えておかないといけない箇所もある程度限られていて、確実に出るのはこのふたつです。
・(サービスに関する遵守事項) 第3条~6条
・(広告表示関する遵守事項) 第11条、第12条
設問:リラクゼーションサービス関する遵守事項のうち注意を要する施術で誤っているものはどれか
1.骨格矯正、脊柱に対するスラスト・アジャスト施術
2.足で踏みつける施術
3.肘の先、膝の先を使って行う施術
4.臀部を施術
■禁止施術と要注意施術
第3条では禁止施術、第4条では注意を要する施術を規定しています。
大事なので、引用しておきますね。
第3条
国家資格が必要な、あん摩マッサージ指圧に代表される治療行為とは全く異なるサービス価値を提供するものであり、以下の行為を禁止する。
① 瞬間的に強く圧力をかける手技
(厚生労働省の指導による危険行為として禁止する)
② 骨格矯正、脊柱に対するスラスト・アジャスト施術
(厚生労働省の指導による危険行為として禁止する)
③ 外傷を残す行為
(医師法17条による外科的手術行為に該当するため禁止する)
④ その他、危険と思われる行為
第4条
以下に挙げる注意を要する施術に対し、事前に注意を促すことができていることとする。
① 足で踏みつける施術
(過剰刺激による後遺症トラブルの可能性があるため)
②肘の先、膝の先を使って行う施術
(過剰刺激によるトラブルの可能性があるため)
③鎖骨下筋、肋間筋、大胸筋を施術
(セクハラトラブルを引き起こす可能性があるため注意を促す)
④腎部を施術
(セクハラトラブルを引き起こす司能性があるため注意を促す)
⑤大腿部内転筋、鼠径部から10cm以内(目安)の部分を施術
(セクハラトラブルを引き起こす可能性があるため注意を促す)
⑥器具を用いて行う施術
(原則的に手技によるハンドテクニックを主体とする)
これによると、選択肢の2~3は第4条の注意を要する施術に該当し、選択肢1が禁止行為に該当することがわかります。
スラスト・アジャストは「注意を要する施術」ではなく、「禁止行為」です。
■スラスト・アジャスト施術とは
さて、テキストには「スラスト・アジャスト施術」が具体的に何を指すのか、示されていなかったので、念のため、調べておきました。
ウィキペディアでは「アジャスト」について、以下のように説明しています。
アジャストとは、カイロプラクティックにおいて、脊椎及び骨盤に対して手もしくは器具を用いて椎骨、仙骨、腸骨を矯正する行為。結果として関節及び周辺軟部組織、椎間板などに影響を与える可能性がある。骨の傾きやズレを検査により導き出し(リスティング)それに対応した部位にコンタクトし瞬間的に矯正する。多くのカイロプラクティックテクニックのアジャストは人体に負担をかけないためにスピードと正確性が求められる。
また、セラピスト用の求人サイト「リジョブ」の用語解説では、以下のように説明されています。
アジャストは、調整、あるいは調節することを指す言葉で、瞬間的に行う矯正法のことをいいます。同じような言葉でスラスト法というものもありますが、スラスト法は、アジャストの中の一つとして使われる言葉なので、混合しないように注意が必要です。 整体の基本である関節を元の位置に戻してゆがみを治す自体が、アジャストとするということであるといわれています。アジャストを行うことで、自律神経の働きを正常なものに戻し、自然治癒力を高めてくれる効果が期待できます。アジャストを行う際に、整体師が特殊な体位をとる理由は、楽な刺激を体に与える必要があるからです。さらに、痛みがほとんど感じないとされているため、体に対して負担が少ない、優しい施術方法といえます。
アジャスト・スラストは、脊柱に対して瞬間的に力を加え、関節の位置を矯正する施術法で、カイロプラクティック由来の施術法ということですね。この説明では「身体に対して負担が少ない」と書かれています。
一方で、厚生労働省から平成3年に出ている「医業類似行為に対する取扱いについて」という通達では、スラスト法について、次のように書かれています。
(2) 一部の危険な手技の禁止
カイロプラクティック療法の手技には様々なものがあり、中には危険な手技が含まれているが、とりわけ頚椎に対する急激な回転伸展操作を加えるスラスト法は、患者の身体に損傷を加える危険が大きいため、こうした危険の高い行為は禁止する必要がある
ここでは、スラスト法はとくに頸椎に対して瞬間的に強い操作を加える施術法で、危険が大きいので禁止すべき、としています。
この通達は、1991年、カイロプラクティックの医学的有効性を検証するために厚生省が東京医科大学の三浦幸雄教授ら7名の整形外科医に委託した調査研究、通称「三浦レポート」が元ネタになっているそうです。が、日本カイロプラクターズ協会は「三浦レポート」を非科学的な研究だ、と非難しているので、カイロプラクティック的にはアジャスト・スラスト法は必ずしも危険で禁止すべき施術ではない、としているようです。
■事故事例
わたしはアジャスト・スラスト施術を受けたこともないし見たこともないのですが、どんなものかはだいたいわかりました。
また、厚労省とカイロプラクティック業界では、これについて対立的な見解にあるようなのも理解しました。
整体という用語は、もともと、カイロプラクティックやオステオパシーの日本語訳だったそうですが、本場のアメリカではどちらも専門の学校で6年勉強しないといけないそうですから、日本の整体とはずいぶんちがいます。短期間の研修や見よう見まねで施術するのはやはり止めておいた方がよさそうですね。
最後に、これもセラピストにとっては重要な文書ですが、2017年に消費者庁が出した「法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術は慎重に」もご紹介しておきます。
これによると、2009年から2017年の8年間で発生した医業類似行為の事故は1500件弱、直近の4年では毎年200件前後、発生しています。
このうち全治1か月以上の重傷が16%、その3分の1は「整体」が原因です。
もっとも、一見危険のなさそうな「リンパ・オイル・アロママッサージ」でも、数は少ないものの重傷者は出ているので、整体だけが危険というわけではありません。
このレポートには、以下のような生々しい事故事例が報告されています。
【事例4】けい椎脊索狭さく症で通院中だが、痛みを和らげるため自己判断で「整体」にも通った。3回目の骨格調整の施術後、激しい痛みが3週間以上続いた。
【事例6】腰痛のため、ネットで評判の高かった「カイロプラクティック」の施術を受けた。首をねじられとても痛かったので申し出たが、痛い方が効き目があると言われ、やめてくれなかった。翌日から首がとても痛くなり、整形外科でけい椎がねじられて損傷していると言われた。痛みが5か月以上続いている。(事故発生 H27 年 10 月 40 歳代男性)
【事例 12】普段から通っている「リラクゼーションサロン」で、いつもの倍の時間のハンドマッサージを受けた。数時間後に両腕が赤く腫れ痛みが出始めた。医師に内出血で全治3週間と言われた。 (事故発生 H27 年9月 40 歳代女性)
どうですか?こわいですよね。
この事例集、私は忘れないように時々、読み返しています。
今日は引用が多くてずいぶん、長くなってしまいました。
でも、試験に受かる知識、という以上に大事なところだと思います。
なぜ禁止なのか、なぜ注意が必要なのか、しっかり腑に落としておきたいと思います。
では今日はこの辺で。
■参考資料
[作成 2019.12.27]
[加筆修正 2023.09.03]
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