知らない街。
知らない街に自分がいる、不思議。
街を歩く、ではない、彷徨う。
目的も着地点もそこには存在しない。
ただ、ひたすらに彷徨い、迷う。
曲がり角、路地、ガードレール、カーブミラー。
見慣れているはずなのに、全てが新しい。
胸を打つ鼓動が微かに速い。
足跡を残さないように、音さえ消して。
反比例する胸の鼓動を押し殺したい衝動。
でも、引き寄せられるように路地に飛び込んでしまう。
道の先には塗装が錆び付いたカーブミラーが立ちすくんで、曲がり角の先を見つめている。
その見つめている先に、私は写らない。
何故、どうして。
そうだ。この街からすれば、私は異なる存在なのかもしれない。
どうすれば、どうしたら。
カーブミラーの道の先を進む。
今、ここで振り返れば私は写るのか?
やめよう。
振り返れば何がある?
その答えを出すのか、出さないか。
私の問に答える前に、今、私はこの街を彷徨うしかない。
雨だ。
ぽつり、ぽつり。
私の身体がその雨粒一滴で溶けていく。
見上げた先には青い山、這うような雲の群れ。
雲は雨を呼び、雨粒は私を溶かすだろう。
指先から私は知らない街に溶け込んでいく。
そして私も知らない街の風景のひとつになる。
曲がり角、路地、ガードレール、カーブミラー。
それらは私と同じように、この街を彷徨う者達だったのだろうか。
私は何になるのだろうか。
鼓動、脈拍、雨粒。
それらが同じ速度になり、私は街になる。
そして、また異なるものが、街を彷徨いはじめる。
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