カラカラ【ショートストーリー】
夏になると届く贈り物。青い水玉模様の白い紙に包まれていた。初恋の味がキャッチフレーズの乳酸菌飲料だ。贈り物の中にはプレーンな味以外に、普段見かけないぶどうやみかんの味があったと記憶している。
茶色の硝子瓶に入った原液をコップに入れる。そこに冷たい氷水を注ぎ、マドラーでかき混ぜる。氷が美しい音を奏でる。
その飲み物は、渇いた喉を潤すだけではなかった。母が自分の為だけに、ひと手間かけ作ることに愛情を感じていた。
少し大きくなってから、自分でも作ってみた。何だか美味しくなかった。母が家を出たあと、父は自暴自棄になり荒れていった。そのうちに夏の贈り物も届かなくなってしまった。
「お兄ちゃん、たくちゃん、混ぜ混ぜしてくれる?」
「はーい」
二人は声を揃えて、コップの中の原液と氷水をかき混ぜ始めた。カラカラと氷が元気のいい音を立てた。
「冷たくておいしいー」
「あまーい」
今は茶色の硝子瓶ではなく、プラスチックの容器に原液が入っている。色々な味も販売されている。原液を少し多めにすると、母の味に近くなることもわかった。白地に青い水玉は健在だが、トレードマークだった帽子のシャドウマンは、もう何処にもいない。
ずっと自分には母性がないと思っていたから、子どもを持つことが怖かった。それでもあの日の母と同じように、わたしも子どもたちのことを思って作っている。だからあの乳酸菌飲料は美味しいのだろう。
母が残してくれた僅かな温もりを探しながら、わたしは愛する子どもを今日も育てている。
文披31題Day26「カラカラ」
商品名出していいのか?だめですよねぇ
そうです!皆さんご想像のとおりあの飲み物の話です。
「カラカラ」
氷の入った飲み物をかき混ぜるという話にしようと思っていました。
わたしの中で別ればなしは、喫茶店で運ばれてきたアイスティー。
そんなイメージを覆す爽やかで温かいお話を書きたくて。
たくちゃんとお兄ちゃん、お母さんに再登場してもらいました。
このたくちゃんのお話を好きだと仰って下さる方がいてうれしいです。
たくちゃんの物語は続きます。
大人になってから甘くてあまり飲まなくなったけれど思い出の味。
Xの方では全31題、今日完走しました。
お読みいただきありがとうございます。
noteにも随時UPしていきます。
風花
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