見出し画像

ラブレター【ショートストーリー】

 本州に遅れて、札幌にも紫陽花が咲き始めた。ふらりと訪れた中島公園。池の周りには涼し気なブルーが拡がっていた。 

 あの人はどうしているのだろう。アカウントを消してしまったようだ。

 リラ冷えに震えストーブをつけた日も、ケサランパサランが、夏の雪のようにふわふわ舞い降りて来た日も、蝦夷梅雨の時期も。いつも思い出していた。

 名前も顔も知らない。知っているのはペンネームだけ。言葉を綴る人。その人の言葉には、自然の厳しさ、冬の森のような凛とした美しさ、夜の静寂と孤独を感じていた。もしかしたら、ずっと探し続けている人かもしれない。自分に似ているような気がして、いつかこの街で会えるような気がしていた。

前略

どこかにいるあなたへ

嵐が来たら手紙を書くわ。いつかあなたに届いて欲しい。

これはあなた宛のラブレターのつもりで書きました。届く筈もないのに。

今もどこかで言葉を綴っていますか?一度でも書くことを選んだ人は、何らかの理由で離れたとしても、必ず言葉に戻ってくると信じています。いつかまた、あなたの言葉に再び出会える日が来ますように。

それまでどうかお元気で。わたしより。

 北海道の七夕は来月だ。蒸し暑い夜になった。アイスクリームを買いに外に出た。明日の予想最高気温は21℃らしい。

 夜空を見上げる。きっと同じ夜空の下にいる。まだ出会っていないあなたといつか会えますように。

 しばらく開いていなかったSNSを開いた。あなたからのいいねが届いていた。

 月に祈りを、星に願いを。

 



文披31題「ラブレター」
ラブレター書いたことないです。
このお話は切なくも儚くもなくてごめんなさい。
お話はいつだって作り話。
このお話もフィクションです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?