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錬金術【ショートストーリー】

「今から綿あめ作るよ」

 お母さんが箱から何かを取り出して言った。

「小さいスプーンで掬ってここに入れてね」 

 ザラメを皿の中に入れて少し待っていると、薄い雲のように綿あめが浮き上がってきた。

「見ててね、くるくるするから」

 ぼくたち兄弟は目をまん丸にして、息を呑み綿あめがどんどん大きくなっていくのを見ていた。あんなちっちゃいつぶつぶが、綿あめになるなんて不思議だった。

「はい、できあがりー」

「すごーい、すごーい、綿あめだ」

「やったやったー綿あめ、綿あめ」

 がぶりと口に入れた瞬間、綿あめは溶けていった。

「おいしいねぇ、お母さんぼくも作りたい」

「いやーたくちゃんがやる」

「たくちゃんばっかりずるい、ぼくが先だ」

「けんかしないの、今日はお兄ちゃんが先、たくちゃん順番こだよ」 

「いやーだ」

 弟のたくちゃんは、ぴょんぴょん飛びながら泣き出してしまった。たくちゃんが泣いてもお母さんは騙されませんよという顔をして、新しいザラメを皿の中に入れた。

「今度は何色の綿あめかな」 
 
 ぼくは割り箸を握り締めた。一瞬も見逃さすもんか。間もなく薄いピンク色の綿あめがふわふわと現れた。

「ピンク」

 ぼくとたくちゃんは、同時に叫んだ。

「当たりー」

 お母さんの真似をして、ぼくは割り箸をくるくるした。

「できたできたー」

「いちご、いちごー」

 ピンクの綿あめはイチゴの味がした。 

「次はたくちゃんの番」

 たくちゃんもお母さんと一緒に割り箸をくるくるする。たくちゃんの綿あめは、水色だった。

「いいなー、たくちゃん、ばくってよ」
 たくちゃんは、ぼくにくれる前にぺろりと食べてしまった。

「たくちゃん何味?」

「サイダー」

 たくちゃんがふざけて、ザラメをたくさん入れすぎたせいで、ぼくたちの顔より大きな巨大綿あめが出来上がってしまい、三人で大笑いした。  
 絵を描くのが得意なお母さんは、透明なビニール袋に、大好きなポケモンの絵を書いてくれた。それに綿あめを入れてお祭りごっこをした。

 ふわふわだった綿あめは、目が覚めたらぺしゃんこになっていた。たくちゃんはそれを見てがっかりしていた。

 あの日、学校のみんなはお祭りに行ったけど、ぼくの家だけ行けなかった。本当はぼくも行きたかったけど、お母さんには言えなかった。 
 
 女手一つで働きながら子どもを育て、何でもできると思っていた母はいつの間にか歳を取り、とても小さくなっていた。

「何にも親孝行できてないな」

「何を言ってるの。もう十分してもらったわよ。子どもはね、生まれてから二〜三年のかわいいかわいい時期に、親孝行してるんだって。誰かが言ってたよ」

 子どもの頃、母は魔法使いのようだった。母の手から創られるものはいつだって、ぼくら兄弟のありふれた毎日を特別に変えてくれた。
 今日は母の命日だ。好きだった花を買って帰ろう。


文披31題Day11「錬金術」
錬金術は、ザラメからできる綿あめにしようと決めていました
錬金術みたいだなぁって

設定はひとり親家庭、男の子二人兄弟
お母さんは働いていますが、お祭りに行く金銭的な余裕はありません
小学生のお兄ちゃんはしっかり者です
お仕事で忙しいお母さんの代わりに、弟のたくちゃんの面倒もよくみています
お母さんはお祭りに行けない代わりに
お家で綿あめを作りお祭りごっこをしました
心の中で子どもたちに謝りながら…
そんな設定で書きました

書いてて感情移入しちゃうお馬鹿なわたし

このようにある程度、設定ができていればサクサクと…
あー明日からまたどうしよう
明日はプロ野球のオールスターだから書けないかも

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