見出し画像

深夜二時【ショートストーリー】

 誰もいない部屋からメヌエットが聞こえた。わたしはナースコールが連動する院内PHSを握り締め、部屋に向かった。

「410号?空床じゃない?」

 個室に入院されていた方は、今日の夕方死亡退院されている。部屋の前で立ちすくんだ。ほかの患者さんが間違って部屋に入ったのかもしれない。意を決してドアを開けた。灯りを付けて病室内を確認する。やはり誰もいない。

 有りもしないことが、病院では時々起こる。ドアを閉めて、ナースステーションに戻り、夜勤の相方に異常のないことを報告した。

「410号の方は、榊さんの担当患者さんでしたよねぇ。挨拶に来たんじゃないですか?」

「まさか」

「何だかラウンド行くの怖くなっちゃいました」

 弱気な後輩を励まし、後ろ姿を見送った。

 深夜二時のメヌエットは、何を意味していたのだろう。どれだけ心を尽くしても、生命の終わりは来てしまう。そして病院では、科学的に説明できないことがやはり起きるのだ。


 看護記録を入力しながら、窓の外を見た。気がつけば太陽は昇り始めていた。



文披31題Day26「深夜二時」

誰もいない部屋からナースコール
あるあるです。
病院でどなたかなお亡くなりになる前に、お線香の匂いがしたとか、装着していないモニター心電図の波形がデデ、アラームが鳴ったり。
長いこと看護師をしていますが、霊感はありません。おばけにも会ったことがなくて。
ただ、場所がダメというのはあります。

ここには書けませんでしたが
生きている方のほうが怖いですよね。
何かが起きる深夜二時。

いつもお読みいただきありがとうございます。


風花

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?