チョコミント【ショートストーリー】
圧倒的な絶望感と渇望感が創作の原動力だった。其れ等を糧にとにかく書いていた。書き始めた頃、ことばはいずみのように溢れていた。今はどうだろう。心は凪いでいる。
豊平川で誰かの亡き骸が、続けざまに発見された。その誰かは、わたしだったかもしれない。そう思うと死ぬのが急に怖くなってしまった。怖気付いたわたしは、あの日を境に少なくとも生きることを選んだ。
もう荒ぶることも、泣き叫ぶこともない。誰かを想い眠れぬ夜も、優しい日々も。心から笑うことも。喉は渇いている。けれどもこのまま潤わなくていい。静かに涸れてしまいたい。
生きることと引き換えに、わたしはココロを失くしてしまったのだ。
ありふれた毎日を生きる、どこにでもいるよう平凡な人々の話。その喜怒哀楽を描くだけ。目新しさもアイデアもない。文学的な技法も、美しい比喩表現も存在しない。登場人物たちは皆、何かを抱え誰かを想い、汗をかき、必死に生きている。ただそれだけの短い話。
何かになりたい。何者にもなれない。憧れと称賛を羨む。上手く行かない人生は、誰かのせいにして、人の幸せを妬み生きている。否定されるのが怖くて、挑戦すらしない。自分の弱さを嘲笑った。
「ご注文はお決まりでしょうか」
「チョコミントを一つ下さい」
猛暑を忘れたくて、目にも涼しげなチョコミントのアイスクリームを注文した。本当はあまり好きな味じゃなかった。
いつが起源かわからないけれど、チョコミントは、すっかり夏の定番商品になった。
柔らかな甘さと清涼感。涼しい風が通り抜けた。こんなにおいしいのに、どうして今まで食べなかったのだろう。わたしの世界は偏見に満ちている。
風がことばを、わたしにココロを。運んでくれるようなことはないのかもしれない。いずみは涸れてしまった。そう思うと少しだけど悲しくなった。
クールダウンして、店を出た。乾いたアスファルトは砂漠のようだ。その上を目標もなく、ただ歩いていく。わたしは砂漠でオアシスを見つけられるだろうか。誰かのオアシスになれるだろうか。振り返ることもなく歩き出した。
文披31題Day12「チョコミント」
わたしあんまり得意じゃないです
先日何十年振りに、一口食べました
最近のチョコミントはおいしい
おいしいです
今日は夜勤です
頑張ります
ほんとうは
だれかのひとことでがんばれるのに