ぴったりにちようチャップリンに出た話
2023年4月29日
テレビ東京「ぴったりにちようチャップリン」に出演させていただいた.収録日は,3月の末だった.
朝十時頃,駅前に三人で集合した.収録する天王洲スタジオまで歩いていく.桜はまだ散っていなくて,柿田さんがしきりに「桜の前で写真撮りましょうよ」と連呼していた.朝から元気だなぁと思ったし,収録が終わってからでもいいだろうにとも思っていた.
途中,なんだかのどがイガイガするような気がしてきたので,コンビニでカリン味ののど飴を買った.収録を意識しすぎて,過敏になっていた.上手くできるか不安だった.
スタジオに着いて,楽屋へ案内された.おろおろしながら,廊下を歩いて行った.楽屋へ着くと,柿田さんがめっちゃ写真を撮っていた.バローズさんと鈴木ジェロニモさんも集合時間が同じだった.
ちょうど少し前に,デニーズでネタ作りをしていた時,ジェロニモさんにお会いして,千円分奢ってくださったので,そのお礼を言った.ジェロニモさんはどうやら僕らの存在に気付いていたようで,違う人だったら怖いから声を掛けなかったそうだ.
三組が集まって,みんなで話していたら,リハーサルの時間になり,収録場へ向かった.
収録場にはもちろん,番組のセットが既に設置されている.基本,画面越しにしか見ることがないものが,目の前にあると,すごく変な気分になる.今でも,テレビに出ている人は本当はロボットなんじゃないかなと,たまに思っている.だから,夢うつつみたいな感じ.あ,本当にあるんだぁ,とぼんやり思った.
リハーサルとはいえ,しっかりとネタをやる.ピンマイクをつけていく.僕の中で,ピンマイクというものは,一気に緊張感をもたらす.ピンマイクがある時は,失敗できない時.うー.朝なので,あまり声が出なくて,結構焦る.焦りすぎて,緊張しているのに,どんどん俯瞰的になっていく.いっそうのこと,何も考えられなくなってしまいたいと考えていた.
柿田さんが僕の上を乗るシーンで,柿田さんはちょっとだけ鼻毛が出ていた.それを眺めてしまうぐらいには,俯瞰的だった.まずいぞ.集中してくれ,自分.
いろはラムネ,バローズさん,鈴木ジェロニモさんの順番でリハーサルだった.バローズさんも鈴木ジェロニモさんも安定して面白かった.どんな場でも安定して力が出せるようになりたいと思う.
ジェロニモさんはリハーサルが終わってからもなかなか戻ってこなかったので,場転のお手伝いをしているんじゃないかとバローズさんと話していた.
楽屋に戻ると,お弁当が置いてあった.三種類あって,結構迷った.テレビのお弁当って本当に美味しい.まず,お弁当の箱から良い.かっちりしている.そんで,熱々でもないのにすごく美味い.僕にとってこれは衝撃だった.料理は冷めていると美味しくないから,口の中がやけどするぐらい熱々にして食べようという理念にも例外があったのだ!そして,みちりと詰まったご飯に,数種類の揚げ物,野菜の煮物,漬物など.どう食べ合わせても美味い.おお,美味い,これも美味い,ああ,美味い.心で呟いてしまう.料理の湿度もちょうどよい.
それに加えて,絶え間ない緊張感が漂っているのだ,その分,食の快楽が倍増し,無言でもぐもぐ食べ進める時間は,漢字にして幸,音にしてさち!とはいえ,どこか緊張はしているので,全力でそこから目をそらして食べた.とにかく,本当に美味しい.余ったやつ全部持って帰りたい.はあ.
新井さんはすぐ食べて,寝ていた.食べるのが早い.柿田さんはめっちゃ写真を撮りながら,のそのそ食べていた.
お弁当を食べ終えると,十三時半頃だった.トンツカタンさんが入られたので,ご挨拶した.収録時間は十七時頃.十四時に練習をしようかと言っていたので,僕も寝た.
起きると,トンツカタンの櫻田さんしかいなかった.楽屋の窓辺で音楽を聴きながら,外を眺められていた.僕はOKOJOというバンドが好きで,櫻田さんもお好きなので,お話ししたかったが,緊張して勇気が出なかった.僕は櫻田さんのことが好きなので,いつかちゃんとお話ししてみたい.
仕方ないので,ぼーっとしていたら,マネージャーさんが,他の人たちはトンツカタンのお抹茶さんとカフェへ行ったと教えてくださった.天気もいいし,カフェ日和だなぁと思った.どうしようもないので,音楽を聴いていた.フジファブリックの「ペダル」.
みんなが帰ってきて,三人でネタ練習を始めた.途中で,ザ・マミィさんと真空ジェシカさんが入られたので,ご挨拶した.
また,メイクしてもらうために,柿田さんとメイク室へ向かった.ただ,もうちょっとだけ待っててくださいと言われたので,ロビーの椅子に座っていた.少し離れた場所で,丸山桂里奈さんがお弁当を食べていた.あ,本当にいるんだなぁと心の中で思った.しばらくして,柿田さんが,わざわざすごく小さい声で,「丸,山,さん,が,いる」と教えてくれた.僕は鈍感だけど,さすがに分かっていたよ,柿田さん.
メイクしてもらった後,思いっきりマスクしてしまった.けれど,メイクは全然落ちていなかった.さすが,テレビのメイクは違うなぁと感嘆した.何か特別な成分が含まれているのだろう.
初めて,ディレクターさんと打ち合わせをした.番組の打ち合わせ.やってみたかったことが,また一つ達成できた.嬉しい.
そして,収録時間となった.バローズのちゅらさんが緊張すると呟いたのを聞いて,ちゅらさんも緊張するのだなぁと思った.
どんどんといろはラムネの出番が近づいてくる.緊張はしている.でも,どこか冷めている.考えないように,考えないように,しようとしても,どんどん考えてしまう.か,ん,が,え,る,な,ば,か,と頭をぺちぺち叩いてみても,考えてしまう.どうしよう,上手くできるかな,ネタ終わりのトークは大丈夫かな,ああ,怖い怖い怖い!さすがに新井さんも柿田さんも俯いている.
出番が来た.板につく.音楽が鳴った.ネタが始まった.手汗がすごい.手元の新聞を持つ手が震える.新聞の文字を読む.上下が逆だった.
もう一度書く.上下が逆だった.もうそれしか考えられなくなった.
ネタが終わった.トークが始まる.新聞の上下が逆になっていたことで頭がいっぱいだった.今まで一度たりともそんなミスをしたことがないのに,この大舞台でこんなミスするかねと笑ってしまいたいぐらいだった.R-1の二回戦でネタばらしのセリフにて盛大に噛んだあの時の感覚に近かった.
柿田さんはのりのりでトークしていた.こういうとき,柿田さんはすごいなぁと思う.常に楽観的な姿勢は,柿田さんの武器だろう.
出番が終わり,セット裏で他の方のネタを見ていた.ぽろぽろ涙を流してしまった.ネタもトークも上手くできなくて,悲しくて悔しくて泣いていた.トンツカタンの森本さんとザ・マミィの林田さんが優しくしてくださった.それがありがたくもあり,自分の無力さが際立って,やるせなかった.どうにもこうにも力が足りない.
収録が終わり,楽屋へ戻ったら,トンツカタンのお抹茶さんが「余ってるお弁当,もってかえっちゃいなよ!」と言ってくださり,持って帰った.柿田さんは,お昼に食べた種類しかお弁当が残っていなかったので,ダブったぁと嘆いていた.
楽屋からスタジオを出る前まで,ザ・マミィの林田さんとお話しした.林田さんは筑波大学を中退していて,僕と学類(学科)まで同じなので,その話で盛り上がった.大学で人気なパン屋「粉とクリーム」の話などをした.
スタジオを出ると,夜になっていた.新井さんも柿田さんも共通して,力不足を実感していた.項垂れてしまっても,ライブはあるし,課題が解決していなくてもやるしかない.明日はとりあえず反省会をして,また頑張ろうということになった.
家で持って帰ったお弁当を食べた.温めて食べた.美味しければ美味しいほど,どんどん今日の出来事が鮮明になっていく.何もかも夢ではない.視界が湯気で滲んでいた.うれしいくやしい三月末だった.