最後にしてよ

 これは過ぎた話、未だに思い出す度に、目の前が霞んで何も考えられなくなる。今も溜息、あの日は雪。

 知り合ったのは中学三年、卒業式を終えてからだった。同じ高校に進学する人が僕のTwitterをフォローしてきた。確認の為にメッセージで色々聞くと同じだったのでフォローを返した。名前は和と書いてなごみと読む。お互い初めての他校から進学する人の知り合いだったのもあって、仲良くなるのも早かった。すぐにLINEも交換した。

 四月、僕には当時彼女がいた。ごく普通の、優しい人だった。結果から言えば、その人と別れた。ちょっとした価値観の違いだった。別れたきっかけになったのはカラオケ。僕とクラスで仲良くなった男子、和とで行くはずだったけど、男友達が急に予定が入って、そいつの分まで楽しんでこようって決めて、二人で行った、それだけ。当時は彼女にそれだけで信じれなくなったとか言われたけど、二十歳寸前の今なら分かる、確かにごめんね。

 別れてからちゃんと泣いた。気持ちとかこれからとか、どうしたらいいのか分かんなくて、気付いたら和に電話をかけてた。前から電話は数回してたし、かけても大丈夫だろうと思ったんだと思う。あんまり会話の内容は覚えてないけど、いつの間にか付き合ってた。事実だけを見れば僕はクズとして分類されるだろう。

 初めては早かった。付き合って一週間程で彼女と一肌脱いで一つになった。彼女は中学の時から数回経験があって、何も知らない僕を怒らず呆れず許してくれた。知識なんて全くないから、違う所に入れようとした時は流石に笑われたけど。当時の僕は薄い壁の存在すら知らなくて、そのまま不器用に、感覚と勢いだけで動いた。ただ行為に及べば何が起こるかだけは分かっていたから、それだけちゃんと外に出した。その日の天気は覚えてない。

 五月中旬、和の誕生日。どんなものをプレゼントすればいいのか分からなくて、逆に何が欲しいか聞いた。彼女は絵を描くのが好きで、イラスト部に入ったからスケッチブックとペンが欲しいと言った。五百円程、全然高くはないけれど、喜んでるしそれでいいかと思った。僕はその後彼女に誘われて、同じ部活に入ることになった。クラスが違う人と話すのが新鮮で楽しかった。

 六月、彼女の地元で祭があった。彼女が太鼓を叩くから見てくれと当日に言うから、急いで支度して見に行った。溢れる迫力、かっこよかったのを覚えている。丁度この時に彼女の地元の友達二人と仲良くなった。四人で見た〆の花火は綺麗だった。それくらいの時期から、休みの日にはどちらかの家でよく肌を合わせていた。初めて彼女の両親と会ったのもこれくらいだった。彼女が彼氏ですと紹介してくれたのでこんにちはと挨拶した。それと、彼女の家で飼っていた黒猫二匹にも。結構重めのアレルギー持ちだけど、それよりも猫は好きだったし、今後も家に行くと思って、挨拶として指で匂いを覚えてもらった。

 七月、体育祭と学校祭。強い日差しの日、体育祭が行われた。バレーやバスケ、ソフトボールなど様々なスポーツの中、お互い初戦敗退して、残る試合をさりげなく二人で見ていた。それから一週間後に学校祭、彼女は持ち味の画力でステンドグラス制作を主力として引っ張っていた。当日二人で食べた、たこ焼きは美味しかった気がする。丁度体育祭と学校祭の間の話、彼女は好きなバンドのライブがあるからと彼女の母と妹と三人で行ったらしい。楽しかったって写真が送られてきて僕は知った。学校でたまに見た事のある人が一緒に写ってた。たまたまライブ会場で会ったから二人で見てたらしい。人が多すぎてはぐれないようにと手を繋いだとも言われた。もしかしたらの焦りと悲しさが少し出て、浮気?と聞くけど、ほんとにそんな気はないって言われた。親と妹と一緒に行ったはずだけど、怖くてそんなこと聞けなくて、うん分かった、と文字で二つ返事。これが始まりだったのかな、ここで終わりにすればもっと傷つかなかったのかな。

 八月、初めての遠出。高速バスに乗って札幌まで行った。二人で美味しいものを食べたり、彼女が好きだったアニメのグッズを買ったりした。都会は広いはずなのに狭いから、何回も同じ道を歩いた気がする。彼女はいつでも元気で、僕も頑張って応えてた。ゼロゼロイチも初めて知った。付け方が分からなくて一枚無駄にしたんだっけな。彼女の家の猫はすっかり僕に慣れて、写真でよく見るみたいに床で寝そべってた。

 九月、回数は減った。飽きたってわけじゃないけど、求められても少なくなった。体力が落ちたわけでもないけど、一回したらもういいやってなってしまった自分がいた。それから彼女はイヤリングの写真をよく送ってくるようになった。当時の僕はオシャレなんて興味どころか理解も知識すらもなくて、一番いいなって思ったのがいいと思う、って言ってしまった。その場をやり過ごすならそれがいいと思ったけど、どれかを決めて欲しいって言われて、なんとなく水色のでいいと思うって答えた。

 十月、終わりの始まり。忘れもしない二十六日、あれはオープンキャンパス前日の話。次の日どの道を歩けば行けるかなどをバスを待ちながら二人で話し合ってた金曜の夜、彼女のスマホにビデオ通話がかけられてきた。高校にも複数人いる名前だったけど、そんなに仲良かったかなと思い、誰?と聞くと、彼女は静かにして、と少し強めに言ってきた。スマホの画面には男の人がゲームセンターらしき場所で遊んでいるのが流れていた。なんだか胸がゾワゾワして、でも今じゃどうにもならないような気がしたからその日はさよならをした。

 翌日二十七日、よく晴れた日。和と知り合った友達二人と、更にそのうちの一人の彼女、五人でオープンキャンパスへ行った。バスの中、彼女のスマホを、ゲームをするからと借りて、寝たのを見計らって気は引けるがLINEの履歴を見た。知らない大学生と話していた。遡ると、好きだのなんだの 言い合ったり、お互いの顔や陰部を送りあっていた。更に遡ると、二人は仮面ライダーをきっかけにTwitterで知り合ったことが分かった。僕にはそんなに欲が無かったから、彼女が僕よりも楽しそうにしていたのが苦しかった。正直、知らない男の陰部から達して漏れた直後の物をを見るのは初めてだったし、浮気されていたという事を飲み込むので二重にきつかった。彼女を起こす前に相手とはっきりさせようと、「彼氏です、僕の彼女と何してるんですか」から始めて、話をつけた。正直正解の行動だったかどうかは今でも分からない。彼女を起こして、この人と話したけど何なのこれ、と聞くと、手のひらを返して、正直嫌だったんだよねと言った、文面は微塵もそんな事は無かったくせに。オープンキャンパスへ行く最中だったし、雰囲気を粉々にするのもよくないと思って、どうしようもなく甘い僕は許してしまった。

 十一月、そこでしたのは最初で最後。少し前に彼女は美術部にも入っていた。まさか、みんな帰った部室でするなんて思ってもいなかった。やめようって言ったけど、彼女が欲に負けて泣くから、身長よりも高い誰かのキャンバスの裏に隠れてしてしまった。背徳感と恐怖で凄く長い時間を過ごした気がする。彼女が声を漏らす度に耳を敏感にしながら行為に及んだ。周りから聞こえる吹奏楽部の練習とひたすら走る外の部活の掛け声。僕は何をしていたのだろうか。僕達はそれっきりしなくなった。

 十二月、クリスマス。吹奏楽部のコンサートを見に行こうと誘われた。音楽は僕も彼女も好きだったからすぐに見に行った。色々な曲のメドレーをしていた。その日の夜、友達になろうと言われた。吹奏楽部のギターの人を好きになったらしい。正直僕もうんざりしていた所はあった。和は元々金遣いが荒すぎて僕は半ば財布になっていたし、中々に酷い浮気もされていたし、お互いの関係について考える事もあった。それでもそれは違うと引き留めた。すると彼女は、前の大学生の二の舞になってるよ、なんて言うから、それは違うでしょ、と流石に怒った。助けてくれと、友達に言って、なんとか説得してくれて諦めてくれた。薄々、自分の中でも終わりが近いっていうのは気付いていた。六日の誕生日に貰ったマグカップは、もうどこに行ったのかすら分からない。

 一月、最後の月。もう彼女は僕の事なんて欠片も思って無かったと思う。今まで通りの通話もしないし、そっけない適当な返事しかしてこなかった。どうしてと聞いても、うやむやにした返事しか返ってこなかった。最近の和の致す時の配信のキャスも送られてきたけど、ただただ気持ち悪さしか無かった。僕の終わりと和の始まりは二十七日、和は僕も仲の良かった同じ部活の先輩と浮気してた。もうどうでもよくなった。引き留める気にすらならなかった。別に先輩はかっこよくなかった。個性強めのオタクだった。先輩も僕と彼女の関係は知ってた、それでもだった。新しい人に迷惑とかかけるなよって言うと、なんで今言うのとか言うから、前から思ってたって言うと、そう、とだけ。消すに消せないLINEのステメには今も三つの意味の数字が未だに更新されている、41。終わりと始まりと、傷の癒えない月。エンドロールはどこ?

 これは過ぎた話、未だに思い出す度に、目の前が霞んで何も考えられなくなる。今も溜息、あの日は雪。もう別れて三年も経つっていうのにね。ほんと馬鹿みたい。やだね、やだなあ。

22/6/15

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