雨宮悠

あめみやゆうです。よろしくお願いします。

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    TECH.C.札幌 ライトノベル&シナリオライターコースのマガジンです。学生作品やコンテスト情報、地元札幌のイベント情報などを発信していきます!【毎週月曜日更新】

最近の記事

幽霊失格

 ユウキ、君が死んでから、もう三年経ったね。私、まだ仕事辞めれてないよ。今日も残業終わり、今もスーパーの半額の惣菜とビールを買って帰ってる。なんだか、まだ一緒に帰ってるよね。居ないけどさ。そんな感じ。  疲れた肩は丸くなって、それでも転がらず歩いてる。代わりに転がるのは私の人生だけだ。ユウキの言う通り、やっぱり仕事辞めるべきなんだろうな。でも、怖いと言うか、そう言う訳じゃ無いけど、なんていうか、さ。決め切らないから現状維持みたいな、捨てたいのに粘って離れない、まるで踏んだガ

    • 僕を知る人はいない

       自分の正体なんて、人に明かせる訳が無い。人には有利に聞こえる偽善と嘘から垣間見える本当を混ぜて、心に這い寄り手の甲に備えた鉄の棘を見せない様に撫でる。友人にせよ愛人にせよ、そうやって人を魅せ人を扱い、良き賽の目として扱う。時折人を貶し、時折人を愛でる。そうして自分自身も偶に傷付いて、半歩寄ってきた心の距離を半歩引いて自分にしか見えない線引きをする。気付いているのに知らぬフリをし、分かっているのに初耳の聞き方をして、そうやってそうやって、ずっとずっと距離を置いてきた。本当の様

      • 鉄製サボテン

         大学生四会目の最後の夏休み、骨董屋で良さげな額縁や写真立てを探していたある晴れた日の事。しばらくして見つけた小さめの木製の三脚と額縁を持って会計を済ませる。腰が曲がり、今にも倒れそうなお爺さんだった。兄ちゃんちょっと待っとれ、と掠れた声で言ってよろよろと裏へ戻っていったので、少し待つと、何か奥で物音がしながらもお爺さんは包箱を持ってきた。 「いやあ棚の物が崩れて驚いたわ。しかしまあえらい若そうよのう。若い子がこんな場所へ来るなんてうちももう少し続けるか迷っちまったわ。今兄

        • 思い出だけでも美味しくさせて

           僕には、小学の時から高校卒業までずっと学校が同じ女友達がいた。田舎だから小学校から持ち上がりで、高校も数が少なかったから一緒になることなんてそんなに珍しいことでもない。昔はそんなに話さなかったけど、高校に入ってからいっぱい話すようになった。高校に入学してから一学年の人数も増えたのに、いっぱい話した。通話もいっぱいしたし、大人に怒られるようなことだってした、夜中にこっそり家から抜け出して二人で歩く、みたいなかわいいことだけど。  高校三年、受験とかも過ぎた頃のある日。珍しく

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          最後にしてよ

           これは過ぎた話、未だに思い出す度に、目の前が霞んで何も考えられなくなる。今も溜息、あの日は雪。  知り合ったのは中学三年、卒業式を終えてからだった。同じ高校に進学する人が僕のTwitterをフォローしてきた。確認の為にメッセージで色々聞くと同じだったのでフォローを返した。名前は和と書いてなごみと読む。お互い初めての他校から進学する人の知り合いだったのもあって、仲良くなるのも早かった。すぐにLINEも交換した。  四月、僕には当時彼女がいた。ごく普通の、優しい人だった。結

          最後にしてよ

          気まぐれ夜の散歩

           「ヘェックション!…もうこんな季節だもん、夜は寒みいな。しかしまあ、お前も飽きねえよな。なんでそんなにゲーム出来るんだよ」  「なんでだろ、好きだからかな」  「まだヒロキでやってんのか?」  「当たり前だろ。自分の名前でやってもいいだろ?」  「そうかよ。莉奈はそれでいいのか?」  「アイツは大丈夫だよ」  「息子は?」  「健太も大丈夫だよ、莉奈が面倒見てくれてるし、莉奈がキツいって言ってる時は俺も手伝うし」  「ゲームなんかせんで面倒見てくれとか言われ

          気まぐれ夜の散歩

          灰色が重なる

           石造りの家、レンガの床、音を立てる車輪。ここは下町、綺麗とは言えない。それでも僕はシャツと茶革の短パン、長い靴下を履き、茶色のサスペンダーを締め、お気に入りの黒革のキャスケットを被る。十五年生きてきたけど、働くのは辛いって事は分かった。地下で採れた鉱石を父さんと一緒に仕分けるけど、それだけで疲れるんだなって。父さんよりも早く仕事を終わらせて、トンカチになる様な固いパンを片手に街を歩く。歩くのは好きだ。色んな人と挨拶をして、スイセイロボットと遊んで、猫と戯れて。でも毎日が平和

          灰色が重なる

          マイ・ホリデー・ルーティン

           そこそこキツめな会社で働いて、今年で五年目。好きくない御局や課長からの指示がキツいんだよね。世渡り上手のよくあるような「ハイソーデス」系の私だから、それなりに仕事とかも回ってきて、昇進とかは近いかもだけど、それなりの仕事量になっちゃう。土日が休日とは言え、土曜には溜まった洗濯とか買い物でそこそこ一日が潰れる。でも、日曜日は本当に一日フリーなの。そんな私のホリデー・ルーティン。  朝起きるのは大体十時、まずここからぐうたらよね。でもいっぱい寝てから自然に起きれた日って、それ

          マイ・ホリデー・ルーティン

          びんのながいたび

          はてさて、ながいたびでした。 わたくし、なまえはございません。 ひかりも、においもわかりません。 なぜなら、ただのびんなのですから。 はてさて、ながいたびでした。 わたくし、てあしはございません。 なにかが、わたくしのなかにはいりました。 おもさは、とくにかんじません。 はてさて、ながいたびでした。 わたくし、ぷかぷかうかんでいます。 なにかを、なかにいれながら。 からだが、すこしつめたいです。 はてさて、ながいたびでした。 わたくし、ずっとうかんで

          びんのながいたび

          その世界を臨むか

           月に一度、地下室は半分水で埋まる。どこから来たのか分からないし、どこへ消えていくのかも分からない。見る限りは綺麗な水だった。  街中に陰としてある築四十七年の家を二十三万で買った。どうやら事故物件であり、裏に少し大きめの工場があり年月は経っているとはいえ、少し広い家で二階建てとなっている。どうやら日中家にいる訳では無いし、夜まで勤務を続けているという事でも無いから、私はここを住居とする事にした。二年経ったある日の夜、寝床に就いていた所に水の音が聞こえた。古い家だからとてつ

          その世界を臨むか

          シロ

           僕は音楽を辞めた。辞めたというより、諦めた。小学生の時から音楽が好きで、朝早く音楽室に忍び込んではピアノや、バスマスターと言われる、弦楽器でいうところのベースを弾いていた。壊したりはしなかったし、先生に見つかった時も君は本当に音楽が好きだねって言ってくれただけだった。  「ねえ、アキラ。中学校入ったらさ、パソコン部入らない?」  シロ、髪が腰ほどまで長く、仲の良かった女の子。放課後はよく二人で遊んでいた。不思議な子だった。酷い持病持ちで体は弱かった。でも活発な子だった。

          愛の行方

           自分に自信が無かった。顔は全く良くないし話も気持ち悪い程下手。魅力的な所なんて一つも自分には無かった。だから勇気を出すことが出来なかった。ましてや、告白なんて。  気になっている人が居た。一目惚れだった。顔が良いとか胸が大きいとかじゃなくて、その雰囲気に惚れた。言葉を選ぶのであれば、大人しさの中に自分の趣味を詰めた感じ。それに性癖ドストライクで、ボタンシャツにネクタイを締めた服装で、そのままスーツを着ても全く違和感が無いような見た目をしている。スカートなどは一切履いている

          素直、尚。

           都会から電車で一時間程離れた田舎町に、とある少年がいた。中学生にしては高校生程には背が高く、声も低い。フリだかどうだか「付き合って」と言われて、そのまま「何に」と返す位には世間知らずで、職員室で「先生」と呼んでしまい、みんなを振り向かせる位には抜けている。そんな彼のお話。  当時中一の少年は、担任が好きだった。面白くてユーモアのある人だった。理科の授業を担当していて、バドミントンに熱のある人だった。  ある日、彼は溶連菌と肺炎を立て続けに引いてしまい、学校を一ヶ月程休ん

          素直、尚。

          気まぐれ夜の散歩

           「ヘェックション!…もうこんな季節だもん、夜は寒みいな。しかしまあ、お前も飽きねえよな。なんでそんなにゲーム出来るんだよ」  「なんでだろ、好きだからかな」  「まだヒロキでやってんのか?」  「当たり前だろ。自分の名前でやってもいいだろ?」  「そうかよ。莉奈はそれでいいのか?」  「アイツは大丈夫だよ」  「息子は?」  「健太も大丈夫だよ、莉奈が面倒見てくれてるし、莉奈がキツいって言ってる 時は俺も手伝うし」  「ゲームなんかせんで面倒見てくれとか言われんのか?」  

          気まぐれ夜の散歩

          夢を見ていた

           水曜の夜九時少し前、家のチャイムが鳴る。恐らくは注文したカフェイン錠剤だろう。病院の先生には止める様に言われているが、一日という時間を水を飲む感覚で作業を進めねばならぬ自分は、そんなことに耳を傾けている場合など無かった。究極の音、一音一音を産み出せるアイデア全てを振り絞って重ねて、そこに言の譜を載せる、最高峰の曲を作る為には、生活等投げ得る覚悟は出来ていた。既に知名度は有る。自分のそれまでの曲を聴いてくれる人も百万といる。しかしそんなものはどうでも良かった。何なら認めて貰う

          夢を見ていた

          あの客

           いつも夜の九時半にコンビニへ来る、肩まで伸びた暗めのオリーブの髪色を、軽いポニーテールで束ねている、三十代位に見えるテンション低めの、仕事着の制服とエプロンまんまの女性客。いつも何かしらの物とハイライトメンソールを注文する。ああ、今日も来た。  「あと、ハイライトのメンソール一つお願いします」  はっきりとしない低い声とパッとしない見た目が、僕は好きだった。正直、歳の差とか僕には関係無くて、向こうが良ければ全然いいんだけどなあ、なんてくだらない妄想をしている。  煙草だけ買