思い出だけでも美味しくさせて

 僕には、小学の時から高校卒業までずっと学校が同じ女友達がいた。田舎だから小学校から持ち上がりで、高校も数が少なかったから一緒になることなんてそんなに珍しいことでもない。昔はそんなに話さなかったけど、高校に入ってからいっぱい話すようになった。高校に入学してから一学年の人数も増えたのに、いっぱい話した。通話もいっぱいしたし、大人に怒られるようなことだってした、夜中にこっそり家から抜け出して二人で歩く、みたいなかわいいことだけど。

 高校三年、受験とかも過ぎた頃のある日。珍しく彼女の方から、地元のとあるカフェに行こうよと誘ってくれた。彼女は元々吹奏楽部で、友達も多かったからまさか誘われるなんて思ってもいなくて、とても嬉しかった。彼女、とってもお洒落なもんだから、頑張って恥ずかしくない服装で行こうって思って、それっぽい服装と靴で合わせた。雨が降ってたからしっかり傘も持った。少し緊張しながら彼女の家まで迎えに行ったけど、やっぱりべっぴんさんが玄関から出てきた。見慣れない服装で、化粧もしてたけど、普段からしてる人は違うなあって感じながら、何故か嬉しかった。傘なんて彼女は持ってきてなくて、カフェまでそんなに距離はないはずなのに、二人の距離は近過ぎて、凄く長く感じたのを覚えてる。

 カフェは、外見は少し大きめのログハウスみたいな感じで、店の中は陶器のギャラリーを兼ねた素敵な一軒屋だった。メニューのバラエティは個人営業とは思えないほどの多さで、お互い充分迷って、僕は若鶏のパスタを、彼女は生ハムのピザを注文した。パスタは少し塩気があって、鶏肉と相性がよく、とても美味しかったのを覚えている。また食べたいと思う程には、あの味が好きだなと思えた。

 帰り道、まだ雨模様の空の下を、また二人、傘を挟んで歩いた。やっぱり家まで遠くて、でも距離は近くて、だけど何か足りない。一言かけるだけで、何かが変わるかもしれない。「あのさ」って言うだけで、全てが変わるかもしれない。どうしようかと迷っている間に刻一刻と終わりは近づいてくる。こんな自分に果たして彼女の相手が務まるのだろうか、彼女に見合った人なのだろうか、自分が釣り合ってるのだろうか、そんなくだらないことを心のうちに秘めながら、悟られないように二人で駄弁っていた。結局僕は何も言えないまま、彼女を家まで送った。何をしてんだ、僕は。後悔でしかない、それでも釣り合ってはないから、これで良かったんだ。そう自分に言い聞かせながら帰りのコンビニでコーヒーを買って帰った。

 それから一ヶ月後を最後に、彼女と全く話さなくなった。あれから一年、もうつく事のないLINEの既読、生涯聞く事のないだろうあの声、それでも毎日更新されてるInstagramで人生が上手くいってるのはなんとなく分かる。僕は今日もカップ麺を啜ってる。

少ししょっぱいし、何か足りないけど、それでも。



22/5/10

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