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歯磨き粉がなくならない

一人暮らしも十数年になり
生活のあれこれが
履き慣れたスニーカーのように
当たり前になる
例えば掃除機をかけたそばから
もう落ちている髪の毛への諦め
小さくなった石鹸が
とにかく泡立たない不思議
靴下は洗濯の前に形を整えないと
干す時に心が少し荒む

さて歯磨き粉がそろそろ無くなりそうで
買い物リストに加える
銘柄は特にこだわらないが
安すぎても不安なので
二百九十円くらいのやつを選ぶ
出番待ちの歯磨き粉は
とりあえず給湯器の上へ
(収納下手の極み)

ここからである
使えど使えど
現役の歯磨き粉が退かない
絞るたびに感じる「そろそろ」の手応え
十数年のうちに
何本の歯磨き粉を買ったか知れないが
このしぶとさには毎回つくづく感心する
歯を磨きながら
またしても君はそんなに粘るのか
まだ無くならないのかと訴える

給湯器の上に手を伸ばすのは
優に十日以上は経ってからだ
なんとも名前の付け難いこの事案を
わたしは友人に熱く語った
彼女は一言
「そんなん思った事ない」
とコーヒーをすする

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