不器用が武器になった話

【注意】映画「すばらしき世界」について書いています。ネタバレになる表現をしているので、ご注意ください。



先日、映画「すばらしき世界」を見た。

この映画のエンドロールが終わった瞬間、「電気よ、頼むから付くな」と思った。

大きくて、
とても持って帰れないと思った。
この気持ちを。

暫く動かず、ジッとしていたかった。大きな気持ちがシュワシュワと小さくなるまで。その時の気持ちはまだ分解しきれていないのだけれど、たぶん悲しい、悔しい、怒りが混ざりあって、若干怒り強め。一言で言うと「こんなラストにすることないじゃないか!」である。私はやっぱりまだ精神が幼いのだろう、ハッピーエンド以外を消化することがとても苦手だ。

でも、そんな怒りを感じつつも、最近フツフツと思っていた事の気持ちがかなり形になった気がしたので、その事を書きたいと思う。


これは不器用さについてのお話です。


主人公は、刑務所から出たばかりの元ヤクザの三上さんである。人生の大半を刑務所で過ごした中年男性。そんな普通の暮らしを知らない三上さんが一般社会で働き、生きていこうとする様を描いた映画だ。

私がどうして、ここまで気持ちが膨れ上がったかというと、この三上さんがあまりにも美しかったからだ。

察するとは思うけど、見た目のことではない。

いや、主演の役所広司は素敵なのは100も承知だし、なんなら7兆くらいは承知している。役所広司が出ていたCMはタマホームだったかダイワハウスだったかは一瞬忘れてたけれど。そうだ!「ダイワハウチュ」だ!と思って思い出した。

あまり言うとネタバレになって申し訳ないので、書くのを躊躇うが三上さんは短気な性格だ。ちょっと気に触ると暴力で解決しようとするおじさんである。ドメスティック+役所広司=瀕死である。胸きゅんとか概念の死ではない。本当に殺されるような恐怖がある。私は映画中のあるシーンの三上さんの口元が忘れられない。

でもそんな内側には純粋で凄く澄んでいて無垢なものがある。
透き通りすぎて消えてしまいそうなくらい。
触ったら消えちゃうシャボン玉みたいに。

「あなたはまっすぐすぎるのよ」

と作中に言わていた。

悪いと思うことは、体を張って守ろうとする。でも三上さんの守るは「暴力」という手段しかない。素直すぎて、嘘が付けない。上手にやり過ごすなんてできない。
彼は「暴力的」だけど「悪」では無いとわかる。暴力を使うことがいけないのだけれど、長年そうやって生きてきてしまった彼は軌道修正がすぐにできず、観ていてもどかしかった。

いびつだけど透き通った傷一つないガラスのように、三上さんは不器用なのでした。

そんな彼に世間は易しくないけれど。あたたかい。
三上さんが嬉しくて泣けること、寂しくて泣けること、誰かのために動けること、周りの人もそれが分かって、手を差し伸べていた。

不器用って、目が離せない。


私はよく「お前あんなの好きなんか」と言われるようなアイドルが好きになる。
ここから一気に話のレベルが落ちるのだけれど、私は推しのアイドルが「太った」「ダンス覚えられへん」とか言ってる時に好感度が爆上がりする。シックスパックのお腹のムキムキアイドルより、ワンパックのぷにぷにアイドルに目がいってしまうのだ。

アイドルって歌番組とかライブとか歌って踊る完成形の姿を見ることが多いから、完璧キラキラスーパーマンだと思ってしまう節があるけれど、当たり前だけど煩悩があるし、普通に苦労するんだなと思って共感する。同じ人間なんだと思って、ほっとする。

でもライブではバリバリ踊れてしまっているので、それを見てあまりのかっこよさに卒倒し、その裏の努力も知ってるから更に泣けてきちゃう、というところまでが一連の流れである。要はギャップ萌えなのである。ダンスのレッスン中の様子とかインスタに上げちゃう運営さん!あれやるとファンはもれなく死んでます。これは概念の死の方です。今後もよろしくお願いします。


「不器用」って愛しい。
「不器用」って魅力になることがあるんだ。


かくゆう私も不器用だと言われてきた。
「この人、思っているより不器用だよ。」と人に紹介されて、申し訳なくてしょうがなかった。器用は優秀で、不器用は不良品だという考えていた。
器用貧乏ってのもあるけど、器用ってできるのに救われないことであって、何より凹むのは、そもそも上手くできないことだ。

不器用だから遅れを取らないようにがんばらなきゃと思っていた。
不器用だから迷惑かけないように頑張ろうと思っていた。


でも、今わたしは不器用な人が愛おしくてしょうがない。
救われないかもしれないけど、不器用は恥ずかしいことじゃない。
不器用だから嫌われるわけじゃない。

もう不器用の呪いを自分にかけるのは辞めよう。
優秀が全てじゃないんだと自分が救われたような瞬間だった。

不器用だからそんなあなたの成功を祈って目が離せなくなる。
私は不器用な人が好きです。


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