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第百三十六夜 『おくりびと』
モニターの前には配達員が立っていた。
おおかた予想はついている。
「サインをください。フルネームでお願いします。」
郵便物を受け取るにフルネームのサインが必要だという。
それだけ重要なものなのである。
「ご苦労様です。」
レターパックで届いたそれは、名前を書く作業もあってか少し重く感じた。
しかし、中を開ければ、なんてことはない送付状とそれに挟まった宅建士証が入っているだけである。
初めて試験を合格した日から、宅建士として登録した日から5年が経ったということである。
実は私と彼は宅建士としては同期なので、恐らく彼の元にも新たな宅建士証が届いた頃ではないだろうかなどと考える。
「郵送してからやけに早く送付されるものだな。」
そう独り言ちる。
宅建士は取得したら一生使えると言うものではなく、5年に一回の更新が必要であり、その際に法改正や違反の事例などを学ぶスクーリングが設けられている。
それを受け終わって、わずか三日ほどで手元に届いた宅建士をまじまじと見て、その重さを確かめる。
もちろん重さとは物理ではない、責任の重さである。
資格を取ることの一つの意義として、責任を取れるということは以前にも別の物語でお伝えした。
しかし、今回はそれ以外の面を実際に初めて更新をして体感したのである。
「研鑽」。
スクーリングの中でも何度も出た言葉であるが、士業、国家資格の多くが有資格者の教育や研鑽という項目を義務としている。
簡単に言って仕舞えば、プロとしてやるなら常に法改正や関連事項にアンテナを貼り、漏れがないか5年に一回くらいは確認しましょうというのが、免許更新の目的でもある。
私と彼は今回の免許更新でまた一歩プロとしての素養を深めたのである。
見れば、新しい宅建士証の自分はプロとしての経験を積み、少し精悍な顔つきになった。
気もしなくもない。
物語の続きはまた次の夜に… 良い夢を。