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忘れられた郵便ポストの奇跡


田舎町の外れにある小さな公園には、古びた赤い郵便ポストがぽつんと立っていました。かつては町中の手紙がここに集まり、遠くへと運ばれていったものの、今ではほとんど使われることがなくなってしまいました。

ある日のこと、町に引っ越してきたばかりの少年、ケンはその郵便ポストを見つけました。ポストの周りには雑草が生い茂り、まるで誰かに忘れ去られたかのようでした。しかし、ケンは不思議な気持ちに駆られ、何かを書いてみたくなりました。

翌日、ケンは自分で作った手紙を持って公園へ行きました。その手紙には、まだ友達がいなくて少し寂しい気持ちや、ここでの新しい生活に対する期待が綴られていました。ケンは手紙を郵便ポストにそっと入れ、「これで誰かに届くといいな」と思いながら家に帰りました。

次の日、公園に戻ると、驚くべきことにポストの前に一通の手紙が置かれていました。封筒にはケンの名前が書かれており、中には「君の友達になりたい」というメッセージと、手作りの小さな折り紙の鶴が入っていました。ケンはその手紙を見て嬉しくなり、何度も読み返しました。

それからというもの、ケンはそのポストを通じて、たくさんの手紙を交換するようになりました。誰が手紙を書いているのかはわからないままでしたが、その不思議なやり取りはケンにとってとても大切な時間になりました。

ある日、ケンは手紙の主が誰なのか知りたくなり、公園に夜遅くまで残ってみることにしました。すると、月明かりの中、ゆっくりと歩いてくる小柄な影が見えました。ケンは息を呑み、影が近づいてくるのをじっと見守りました。

現れたのは、近所に住むおばあさんでした。彼女はケンに気づくと、少し驚いた顔をしましたが、すぐに優しい笑顔を浮かべました。「ああ、あなたがいつも手紙を書いてくれていたのね。ありがとう」とおばあさんは静かに言いました。

おばあさんは、亡くなった夫との思い出をこのポストに託していたと話しました。彼女もまた、孤独を感じていたのです。ケンの手紙が届いたことで、その寂しさが少しずつ癒されていったのでした。

ケンとおばあさんは、その日から本当の友達になりました。そして、忘れられていた郵便ポストは、町の人々の間で再び愛される存在となりました。手紙のやり取りを通じて、人々の心が温かく繋がり始めたのです。


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