ツナマヨ
マヨネーズが嫌いだった。
得体の知れないビジュアルと、音の響きもどこか気味が悪いと感じていた。
それに、マヨネーズが嫌いというと、食べなさいと怒られるどころか、健康的だね~とか、食べんでいいよ~とか周りの大人が言うものだから、ますます嫌悪感を抱くようになっていた。
最初に日本にマヨネーズを取り入れた人は、日本人の健康を思って開発したらしい。
それが今では肥満の代名詞、不健康の権化となっていて、福山雅治をもってしてもそのイメージをぬぐい切れていないのには同情するしかない。
そんな私がマヨネーズを食べられるようになったきっかけは、ツナマヨだ。それまではマヨネーズが嫌いという理由で、ツナも食わず嫌いしていた節があったのだが、アイドルかアニメキャラか誰かが
「一番好きなおにぎりはツナマヨです」
と言っているのを見て食べてみた。
以来、見事に私の一番好きなおにぎりもツナマヨになってしまった。
カタカナでいかにもジャンキーな響きなのに、それが醤油の甘みとうまく合わさって、これ以上ないほど「和」っという感じがする。
ところで言語学には右側主要部の原則、というものがある。
カレーパンはカレーではなくパン、チキンカレーはチキンではなくカレー。
つまり二つの単語が合わさってできた複合語では、右側の単語が主要部となり、その単語のジャンルを指定する、という法則だ。
ところがこの原則、日本語にはどうも当てはめづらい。
たとえば、「親子」のような並列関係で成り立つような単語は日本語特有だったりする。この場合、親と子は同じランクに位置していて、どちらかが強いわけではない。
ツナマヨも同じである。並列かどうかはさておき、ツナマヨはツナかマヨネーズかと聞かれて「マヨネーズの一種です」と答える人は、過激なマヨラーを除けばそう多くないだろう。
そういえば、世の中には、マヨネーズのボトルを袋ごと冷蔵庫に入れる人と、袋から出して入れる人の、二種類の人間がいるらしい。
母は袋のまま保存する人だったので、当たり前みたいに私もそうしていたが、よく考えてみると理由はわからない。
でも袋から出したマヨネーズは、服を着ていないみたいで、なんだか寒そうで、少し恥ずかしいような感触がするから落ち着かない。
じゃあ透明な服を着せればいいのかとも思うが、これが彼女にとっての正装なのだ。