無花果化現象
今、私の中でイチジクブームが来ている。
昔はいわゆる食わず嫌いで口にしてこなかったが、この頃その味の深さのとりこになってしまった。
なぜ嫌いだったかというと見た目である。
果物の醍醐味ともいえるみずみずしさを全く感じさせない質感に、緑と紫の何とも言えない色合い。
極めつけはあの断面だ。
クリーム色の果肉に囲まれた中心部分は深い赤。
果物というよりむしろ、人間の臓器である。
見てはいけないものを見ている気にさせられる。
筆者、少々グロな漫画等は嫌いではないが、食べる趣味はない。
同じような理由でザクロにも嫌悪感を抱いていたが、あれの方がまだ果物感が強かったため、わりと早めに卒業した。
おそらく多くの人が同じ道を通っているだろう。
私の初トライは乾燥イチジクだった。
干からびた臓器にもはや血色感は皆無。口に入れるのは容易いことだった。
味はというとそれほど衝撃を受けた記憶はなく、ちょっとプチプチする健康に良さそうなおやつ、くらいの認識だったと思う。
生の、乾燥していないイチジクのおいしさを知ったのは、確かおととしの夏ごろ。それまでにも食べたことはあるかもしれないが、残念ながら覚えていない。
甘さの中に少し感じる塩気(血液に引っ張られているわけではない)、上品な口当たり。
もっと早くに知っていれば親も買ってくれたかもしれないのに、と後悔せずにはいられなかった。
味だけではない。皮ごと種ごと食べられるのも素敵なポイントだ。
ピトシャンピトショの言い分にも納得である。
おいしいとわかると、あの不気味なルックスまでおしゃれに見えてくるのだから不思議である。
先日イチジク柄のトレーナーなるものを見つけてしまい、危うくポチポチするところだった。
もしかするとイチジクブームが来ているのは私だけではないのかもしれない。
原色よりくすみカラー。ツヤ感よりマット。
世の中の流れはイチジク化しているともいえる。
私がイチジクに魅せられているのも、自分の意志などではなく時代の潮流に乗せられているだけなのかもしれない。
何はともあれ、イチジクは脳内で毎月発表される私的果物ランキングの常連になりつつある。まだ数えるほどしか食べたことがないにもかかわらず、強者である。
スーパーで見かけたら必ず買う。と言いたいところだが、行きつけのイオンで陳列されているところは、残念ながらまだ見たことがない。