見出し画像

この6曲を聴いたら『便箋(びんせん)』の孤独に抱き締められた

便箋を歌詞にした人々。幾田りら氏、桑田佳祐氏、amazarashi氏、森山直太朗氏、中島みゆき氏、阿久悠氏。並べて読んでみたら泣けた・・・。


先日、たまたま見ていたテレビドラマで、便箋に書いた手紙を年上の人に手渡しするシーンが会った。それを見た時に、そうか、今の若い人も便箋を使うことがあるのかぁと思った…。

私も昔は何度か便箋を使ったけれども、最近はまったく、使っていない。連絡事項はすべてメッセージアプリでこと足りているのだ。
便箋と似ているものとしては、ペン字の練習がてらに、無地の紙を使うことがあるけれども、便箋とはかけ離れている。

ということで、曲の中で使われている『便箋』がどのような変遷をしているのか、興味が出た。

調べ始めてみると、『便箋』を使った曲は大量にあり、読み切ることができないくらいだった。そこで、独断と偏見で6曲選び出し、『便箋』の部分をピックアップした。
なお、曲順は時系列にしたので、読んでいくことで、便箋の歴史を感じることが出来るかもしれない。



1. あべ静江 『みずいろの手紙』 作詞:阿久悠 1973年

みずいろは涙いろ そんな便箋に
泣きそうな心を たくします
あれこれと楽しげなことを書きならべ
さびしさをまぎらわす私です

2. 中島みゆき 『六花』 作詞:中島みゆき 2001年

すさぶ大地の下で 花は眠っている
吹き付ける北風の 子守唄聴いている
広い空の上では 手紙がつづられる
透きとおる便箋は 六つの花びらの花

3. 森山直太朗 『小さな恋の夕間暮れ』 作詞:森山直太朗 2005年

黄昏の空に 行き場をなくした異邦人
知らない街から 届く枯れ葉の便箋

4. amazarashi 『無題』 作詞:秋田ひろむ 2011年

変わってくのはいつも風景
その買主から手紙が届いた 桜模様の便箋にただ一言
「信じてた事 正しかった」

5. 桑田佳祐 『オアシスと果樹園』 作詞:桑田佳祐 2017年

恋はブルーの便箋ひとつ
言葉言葉に愛をしたためて
こんな男が今も君を想う

6. 幾田りら 『P.S.』 作詞:幾田りら 2023年

まっさらな便箋を
溢れ出す想いで埋めていく
身勝手に飛び込んで
君の心を連れされたら
なんて出来るはずないか


どの歌詞も古く感じることもないし、新しすぎると感じることもない。
美しく生き生きとしていた。

私は『便箋』の意味を見くびっていたのかも知れない。便箋は封筒に守られている大切な文章である。それはもしかしたら肉体に守られている弱い心と似ているのかも知れない。


ピックアップして最初に気がついたのは、『便箋』には、送る側と、受け取る側の2つあるということ。
歌詞の中で、しっかり使い分けられていた。この6曲の中では、送り側の便箋3曲、受け取り側の便箋3曲だった。
偶然とはいえ作詞家を同数に分けると思うと、鳥肌がたつ。
作詞家別にまとめると以下のようになる。

便箋を送り主側にした3人
阿久悠氏、桑田佳祐氏、幾田りら氏

便箋を受け取り側にした3人
中島みゆき氏、森山直太朗氏、秋田ひろむ氏


何度も読み返しているうちに思ったこと。一般的に便箋を使う環境としては、書くときも読むときも一人であるものである。この6曲を読むと共通して一人を感じる。一人を感じる歌詞は、ホロリとくる。


6つの歌詞とも感慨深いのだが、何箇所かコメントしたい。

まず、1. あべ静江 『みずいろの手紙』 作詞:阿久悠
1行2行4行は弱さを書いていて、3行目だけ強がりを書いている。これは、昭和時代はよく使われていたけれど、令和になってからはあまり聞かなくなった。
昭和時代には弱い気持ちを隠して強がりを言うと、「無理するなよバカヤロウ」と抱きしめる、という定番の流れがあった。…と思っているのだが、もしかしたら、地域性があるのかも知れない。
ということで、この歌詞は昭和世代のど真ん中。

次は、4. amazarashi 『無題』 作詞:秋田ひろむ

引用部分の2行目で、『買主』と書かれている。
この歌詞は、物語性が強いから、全編について触れざるを得ないけれど、『買主』とは『彼女』だった人のこと。
引用部分では、もう『彼女』と呼ぶことはできなくなったけれども、便箋の体裁も、書かれている言葉も、あの頃と変わっていない。で、締めている。
『彼女』→『買主』と言い方を変えている歌詞がドラマチックである。

次は、6. 幾田りら 『P.S.』 作詞:幾田りら

一般的に詩を構成する言葉は、限定的なものが格好が良くて、外国語とか、造語とかが選ばれるものなのだが。この歌詞は、その真逆をいって、意表をついている。
最後の1行『なんて出来るはずないか』である。これは、小学生でも、酔っぱらいでも、お年寄りでもふつうに使うくらいの言い回しだけれども、でも、パワーワードだ。願いを口にした直後に本人が諦めてるのだ。
これは、聞かされた瞬間に『諦めるなよ』と条件反射しそうになるけれども、よく考えれば願いの内容が切実なんだけれど、無理が明らかな場合は、掛ける言葉を失ってしまい、苦しくなってしまう。
苦しくなる言葉を含んだ歌詞、とてもいいと思う。


さて、自分(雨語入門)も『便箋』の詩を書いてみた。題名が『便箋』。本文には『便箋』は含まれていない。

7. (付録)雨語入門『便箋(びんせん)』

白くてきれいな紙を
探してる
手紙を書きたくて

透けるほどに
薄い紙なのに
書き手の気持ちは
吸いこまれるから

受け取り手の視線は
レース越しの
光が踊る紙面を
優しく滑るだろう

文字を読まなくても
気持ちが届くほどの
真っ白な紙が欲しい


最後までお付き合いいただきありがとうございました。

『五月雨』の歌詞を扱った記事も書いてます。


今回の記事で使わせていただいた曲の収録されているCDを文末に掲載しました。本記事の順番に合わせています。ジャケットも素敵です。お楽しみください。
では。

あべ静江『みずいろの手紙』3曲目に収録


中島みゆき『六花』6曲目に収録


森山直太朗 『小さな恋の夕間暮れ』10曲目に収録


amazarashi 『無題』2曲目に収録


桑田佳祐 『オアシスと果樹園』11曲目に収録


幾田りら 『P.S.』 ・・・ 2024.6現在、まだCD発売されていないようです。配信はされてます。

いいなと思ったら応援しよう!