自選短歌30首+1首の第4弾です
雨虎俊寛(あめふらしとしひろ)です。
2017年から2021年の年始までに詠んできた中から選んでみました。コロナ禍の2020年は仕事の激務化やカルチャーの休講に歌会などの中止や開催激減という状況の下、前年までより作歌数がかなり少ない1年でしたがその中で短歌ユニット『dectet』という活動期間1年間限定という短歌ユニットに参加し毎月3首連作を発表する場を得れて絶やすこと無く作歌できたのが有り難かったです。
今回はそんな2020年以降から6首入れました。作歌数こそ少なかったのですが自選ではありますが選ぶ歌を詠めたことを喜んでおります。1首だけ前回に入れなかったものも「好きな歌です」と教えてもらう機会があり混ぜてたりします。今年もコーチに御指導御鞭撻叱咤激励を受けながら出来の悪い教え子ではありますが詠ってまいります!そして短歌な皆さんとの切磋琢磨を何卒よろしくお願いいたします。ちなみに歌の並びはなんとなく新しいもの順です。
(それにしても「きみ」が多過ぎるな。まぁ「きみ」のことを詠いたいから仕方ないのだけれど)
きみになら言わなくたって伝わると花なら白と答えるように
母のように口つぐむきみ江ノ島のタイドプールでサンダルを脱ぐ
金木犀の香りをたどり遠い日のこたえあわせのこたえでなくて
前をゆくテールランプをただ見つめセンターラインを越えて飛ばした
助手席のきみのようだねじゃれてくるミントが邪魔なモヒートコーヒー
飛行機が大きな街の駅前で大きな傘をさすきみがいた
きみは今しあわせですかビル群を縫う漢江が何度も映る
ワイパーがきかないくらい打ちつける雨とライオン橋を渡った
コンビニの袋の中は虹色に「ほろよい」たちで満たされている
ポンプ車が遠のくときに告げてゆく鎮火したぞと二打の警鐘
ぬくもりが伝わるような触れかたを記憶の中のきみはするのに
凌霄がぼくの指から伸びてゆきつたえたかった言葉をはなつ
汗かきと決めつけていた ただきみが歩幅の違い埋めていただけ
皿そばのお薦め店を聞きながら出石城下を俥夫に曳かれる
水無月の闇を照らして五分咲きのあじさい電車はしずかに登る
銀色の月の滴の形したベンチに座る 靴がぶつかる
赤茶けた融雪道路からはずれ雪のところをふたりは歩く
もう誰も連れてこないと決めていた片男波へと連れだしている
ふたりでも食べきれないとジャムにした瓶の中身はあと少しだけ
真っ白い股引き姿の若衆に菖蒲の浴衣ラムネを渡す
林檎飴たったひとくちかじったら「もういらんわ」と空に飛ばした
助手席はいつものようでいつもとは違う角度に戻されている
真夜中の赤信号を徐行してドクターカーは右折していく
薄雪はまだ踏まれずに側道の消火栓の蓋ここにあるはず
哀しさ悔しさ寂しさ愛しさのどれを選ぼう 雲が過ぎてく
青葦の八幡堀をめぐる舟「また乗ろうね」が果たせぬままに
改札できみを見送る日々だった七道駅をまた通過する
橙に滲むタワーを振り返ることができずにもう三ノ宮
「サ..ヨな.ラ...」に気づいてるのに切れかけの蛍光灯をそのままに去る
ぼんやりと写真の奥で浮いているポートタワーに触れてみる夜
砂時計をくるりと返すそれだけで時はきみごと戻る気がして