地縛霊【ホラー怪談小説】


 地縛霊に祟られたという話はよく聞きます。神社の鳥居を取り払おうとしたら、ショベルカーが倒れ、その下敷きになって作業員が死んだとか、ああいった類の話です。地縛霊という言葉の響きからしてすでに不吉です。今回の話はそんな地縛霊にまつわるある一家の話です。

 今まで住んでいた団地が手狭になったので、その一家は郊外に新築の家を買い、そこに移り住みました。一家が恐怖に襲われ始めたのは、引っ越したその日からでした。

 夜中になると高校生の娘の部屋から、男の声が聞こえてくるのです。母親が耳をそばだててみると、男たちは時代劇で聞くような古い言い回しで話していました。不審に思い母がそっと襖を開けると、話し声は ピタリと止んでしまいます。真っ暗な部屋の中では、娘の寝息がかすかに響いているばかりで、その他は人の気配もありません。

 また翌日の夜中には、突然、娘が大声で、

「きゃあー」

と悲鳴を上げ、部屋から這うようにして出てきます。

 びっくりして目を覚ました母が、飛んで行き部屋の明かりをつけましたが、やはり 誰もいません。

「どうしたの?」

と問うと、娘は唇を震わせて、

「あそこに鎧を着た血だらけの男が何人も立っていたの…」

と部屋の隅を指さしますが、男の姿なんてありません。

 その時は、母は夢でも見ていたのだろうと思い、あまり気にしませんでした。

 しかし、その後も娘は、たびたび夜更けになると、

「きゃあー」

と悲鳴を上げて、部屋から飛び出してきます。しかも、最近は夜中ばかりでなく、昼間でさえも誰かに見られてるような気がするというのです。風邪ひとつさえひいたことがなかった娘は、みるみる体が痩せ細っていき、ある日とうとう倒れてしまいました。

 ついに母も泣き出して、隣の家へ駆け込み 、そこに住む老爺に事情を話しました。今まで健康だった娘が、ここへ引っ越してきた途端、おかしくなったのだから、 母はこの土地に何か問題でもあるのではないかと思い、それで昔からこの土地に暮らす老爺に子細を聞きに行ったのです。

 母は説明をし終えると、老爺は、

「実はな、その昔な」と、遠くをぼんやり見つめながら、

「この辺は古戦場跡地でな、盛り土をした 小さい塚がいくつもあったんだ。塚は戦に敗れた武者たちを埋めたものだが、もちろん奥さんの家の敷地内にもあったんだよ。奥さんの家は塚があると邪魔になると言うので取り除いて平らにしたその上に建てられたものなんだ。もしかしたら、それに腹を立てた武者が、娘さんに取り付いたんじゃなかろうか」

 一家はその日のうちに家を捨て、新たな土地へ引っ越して行きました。

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