墓石の洋館

 その三階建ての館は、墓石の洋館と呼ばれている。茨城県の南部、利根川沿いにそれはある。20年ほど前に建てられたこの館は、現在、持ち主もいなければ、住人もいない。この館が建つ土地は、その昔、無縁墓地があった所で、建築の際、多くの墓石が使用されたという。墓石の洋館という呼び名は、ここから来ている。
 10年前の夏の蒸し暑い夜、館の噂を聞きつけた5人の暴走族がやって来た。派手派での特攻服を着て、前に長い金髪をした彼らは、ここで肝試しをしようと企んだのである。あたりは、ひっそりとしている。物音一つ無い。しかし、その静寂を破る世にも奇妙な事件が起こった。彼らが館に入った、その直後、
「ぎゃー」
この世の物とは思えないほどの悲鳴が、館から聞こえてきたのである。
 この悲鳴に驚いた付近の住人が駆けつけて見ると、館の窓という窓が血のような赤に染まり、館全体が、びりびり細かく震動していた。住人達は、あまりの出来事に唖然とし、無言のまま立ちつくした。しかも、そのうち、もっと奇怪なことが起こった。もう一ぺん、
「ぎゃー」
と悲鳴が聞こえたかと思うと、突然、三階建ての館が、伸びたり縮んだり、生き物のように動き始めたのである。
 翌朝、館からボロボロに破れた特攻服が出てくるのを、住人達は見た。彼らの金髪は一夜にして、一本残らず、白髪に変わっていた。住人の一人が、近づいて話しかけると、暴走族は、口を半開きにしたまま、ニタニタ、ニタニタ、狂人みたいに笑っていた。
 この日以来、館に脚を踏み入れる者は、誰一人いなくなった。


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