おふくろの味の秘密
おふくろの味を売りにする食堂が国道16号線沿いにあった。大変うまいと評判だった。
ある日、慎吾という会社員が出張の帰り その店によった。評判のおふくろ定食を注文した。確かにうまかった。懐かしい味がした。食事を済ませた慎吾はこの味の秘密を探ろうと、こっそり厨房を覗いてみた。
厨房にはこの店の店主らしきおばさんがいた。せっせと立ち働いていた。実に手際よくアジの開きを焼いていた。両手が目にも止まらない早さで動いていた。実に鮮やかだ、としばしの間、おばさんの勇姿に見とれていた慎吾だったが、不意に彼は猛烈な吐き気に襲われた。何故ならそのおばさんがアジを焼き終えるとそれに向かってこれぞ究極の隠し味だべ、とばかりに、ぺっぺっと唾を吐き始めたのである。
おふくろの味には、おばさんのエキスが染み込んでいる。
慎吾はついに堪えきれなくなり、もどした。