雨 りかこ

頭のなかはいつも不安でぐちゃぐちゃで、何かやるたびに失敗することを想像していて、もはや現実ではなく、幻想のなかを生きているようです。

雨 りかこ

頭のなかはいつも不安でぐちゃぐちゃで、何かやるたびに失敗することを想像していて、もはや現実ではなく、幻想のなかを生きているようです。

最近の記事

ブブのながいはなし62

ブブの予想とは反して、ふわふわとした気持ちはずっと続きました。心配しなければ、不安にならなければ、この気持ちはずっと続くことだってあるのです。ブブはいつも考え事ばかりしていたせいで、心地よいこの気持ちを忘れていました。さあ、あとは帰るだけです。風と一緒に一歩ずつ進んでいけばよいのです。どうして歩いてどこかに行こうとしたのか、いまとなってはわかりません。どうして安心できる場所から遠ざかろうとしたのか、全然わかりません。もしかしたら、安心が怖くなったのかもしれません。生きていくこ

    • ブブのながいはなし61

      ブブはうとうとしていました。現実のような現実ではないような、間をたゆたう心地です。どこにも身を置いていないから、体は軽くふわふわとしてとても気持ちが良いのでした。頭と体の境もなくなって、体が一つにまとまっている気がしました。しばらくこの感覚とはご無沙汰していた気がします。ゆっくりゆっくりどーんどーん、どこかで誰かの声がします。そういえば出発したばかりには、どこかから響く声も一緒でした。体がふわふわとしてブブは夢見心地です。空気と一緒になってしまったようでした。でもブブにはわか

      • ブブのながいはなし60

        ズンズンズンズンとブブは歩いていきます。ただ道なりに進んでいきます。そうしたらずうっと遠くに来ていました。今まで止まってばかりだったのでこれはこれでよかったのかもしれません。やけくそはやけくそで、おかげで力を出すことができました。ブブは見慣れた景色の中にいました。今までいた安心できるあったかい場所は近いはずでした。いろいろあったけどそろそろ戻れそうでした。なんだかちょっと安心して急に力が抜けてしまいました。そうしてまた座ってしまうのでした。風が吹いてとても心地よく感じました。

        • ブブのながいはなし59

          ブブはいいことを思いつきました。「今までのことを全部忘れてしまえばいいんだ」頭の中からスコーンッと抜き取ってしまえばいいのです。ブブは我ながら名案だと思いました。でもどうしたら忘れられるのでしょう? ブブはすぐに困りました。頭に穴を開ければ中身がスコーンッと抜けるはずもありません。ブブはいつだって困っています。そうして困ったからこそ、やけくそでズンズン歩いて行こうとしました。道が間違っていようと関係ありません。やけくそは怖いのです。それ以外の選択肢は潰してしまいます。頭に血が

          ブブのながいはなし58

          ブブが触ってみたつぼみは、ひんやりとして硬い感触がありました。金属のような硬さではなくて、儚い硬さです。ぎゅっと力を入れたら、きっと潰れてしまいます。ブブはそうっとつぼみを何度も触ってみます。不思議な感触でした。生きているよというメッセージが遠くのほうから飛んでくるようでもありました。ここから花が咲くのです。ブブには想像のできないことでした。自力でつぼみを膨らませて、花を開く。なんて迷いのない行為なんだろうと思います。他に道はないのです。ブブは、自分もそうすればいいのだと思い

          ブブのながいはなし58

          ブブのながいはなし57

          ブブは自分のことを考えながら歩くことにしました。もうすぐ誕生日だったはずです。でも自分の年齢が定かではありません。何年生きてきたのか、ちゃんと数えてこなかったのです。何年生きてきたのかは、ブブには必要のないことでした。ブブはどこから「自分」が始まったのか思い出そうとしました。でも、道に咲いている草花だけが目に入ってきて、自分のことはさっぱり思い出せません。最近考えていることだけが頭の中をぐるぐるとします。ひとりぼっちで寂しかったこと、ステップをうまく踏めないこと、歌を忘れてし

          ブブのながいはなし57

          ブブのながいはなし56

          ブブはすたすたと歩いていきます。力がみなぎる感じがしていました。そしてどこに行けば歌が思い出せるのか考えてみます。歌があったのはあったかくて安心できるあの場所でした。ブブが戻ろうとしていた場所です。自分のやろうとしていたことが間違ってなかったようでした。ブブは嬉しくなって、歩く速度を上げました。でも道が定かではありません。真っ直ぐただ歩いてきたはずでしたが、本当にそうなのか急に心細くなりました。足も急に重く感じます。また、つまずいているとブブは空しい気持ちに襲われました。そし

          ブブのながいはなし56

          ブブのながいはなし55

          ブブは「ありがとう」と木の精に言いました。木の精はびっくりして考えるのをやめました。「歌を探しにいってくる」とブブは木の精に告げて歩き出します。あまりに突然の出来事で木の精はなんと言っていいかわかりませんでした。ただただ歩き出すブブを見つめます。そうして小さな声で「さようなら」とつぶやきました。一方のブブはなんだか急にやる気が出てしまって、歌を探せばいいんだと納得していました。目的がはっきりしたのです。別に歌を忘れてしまっても生きていくことはできますが、どうしても歌を思い出し

          ブブのながいはなし55

          ブブのながいはなし54

          ブブは歌を忘れていました。歌はあったかい場所と一緒にあったはずでした。そして忘れてしまったことすら気づいていなかったのです。ブブの頭は思っていたよりカッチカチで重くなっていました。「ステップよりも歌が先だったか」木の精はぽつりとつぶやきます。でもどうやったらブブが歌を思い出せるのか見当もつきません。なんと説明したらいいかわからないのです。歌はどうやって歌えばいいんだろうと木の精まで考え始めてしまいました。ブブは木の精が黙ってしまったので、どうしていいかわからなくなりました。声

          ブブのながいはなし54

          ブブのながいはなし53

          「♪タラリラララー」木の精はおもむろに歌いはじめました。「考え始めてしまったと思ったら歌えばいいさ」と言いながら歌い続けます。ブブは木の精の歌をなんとはなしに聴いていました。メロディが頭の中に入ってきてさっき考え始めたことはどこかへいってしまいました。「なんでもかんでも歌にのせて追い出せばいいのさ。そしたら身軽だろ。身軽になったらステップだって踏める。身軽さが重要なんだ」ブブはうなずきます。そして口笛を吹いてみようとします。でも全然音が出ません。鼻歌を歌おうとしてもどうやって

          ブブのながいはなし53

          ブブのながいはなし52

          ブブはながいこと黙っていました。木の精の話を最初から何度も反芻していました。どういうことなのか、自分の頭で考えようとしていました。「君も頭が働きすぎて、そのうち頭が地についてしまうよ」木の精はブブを心配して声を掛けました。ブブはそれもどういうことか分からず、黙っていました。「頭がどんどん大きくなってる。外から見ているとよーく分かるよ」ブブはなおも黙っていました。「さっき見上げた太陽の光は頭に届いたかい? 考えなくたっていいことだってあるのさ。ただ受け取ればいいじゃないか。自分

          ブブのながいはなし52

          ブブのながいはなし51

          「昔、君と同じようなやつがいたんだ。俺たちの周りをうろうろして休んで、またうろうろして休む。せっかく歩いてどこへでも行けるのに、なんで同じところばっかりうろうろしているんだって俺はちょっとイライラしてた。でもそいつは、君のように語りかけてこなかったから、話はできなかった。なんだかむずがゆいと思っていたら、急にそいつは動かなくなったんだ。最初は寝てるのかと思った。でも何日も動かなくなってしまったんだ。なんでこんなことが起きたのか、俺には全然わからなくて、君に教えてもらいたいくら

          ブブのながいはなし51

          ブブのながいはなし50

          「私も動かなきゃよかった」ブブは後悔を口にします。「どうしてそう思う?」木の精はちょっと不機嫌そうです。「ずっとあったかくて安心できるところにいれば、途方に暮れることなんかなかったはずだもの」ブブは思ったことを口にしてみました。「確かにそうだ。俺たちは安心できる場所にずっといる。でも、雨が降っても台風が来ても、どこへも行けない」それを聞いてブブはため息を漏らしました。そういうこともあるのだと、やるせない気持ちがどっとのしかかってきます。はあ、なんでこううまくいかないのだろうと

          ブブのながいはなし50

          ブブのながいはなし49

          「俺たちはじっとしていてほとんど動かない。というより、動けないのさ」木の精だという声は矢継ぎ早にブブに話しかけてきます。「だから君たちがうらやましいよ。手を動かせて、足も動かせて、前にも後ろにも進める」ブブはじっと聞いていました。「ただ、動かなくても退屈はしないのさ。風の便りが届くし、遠くにいる者たちと話だってできる。念を送るっていうか、強い思いがあると繋がれるんだ」ブブは信じられないと思いながら、聞いていました。「本当さ。君の話も甥っ子から詳しく聞いてる。なんだか面白い話だ

          ブブのながいはなし49

          ブブのながいはなし48

          「あなたは誰なの?」思い切ってブブは聞いてみました。でも、なんの返事もありません。少しの沈黙のあと、「君は誰?」と声が飛んできました。「私はブブ。いま疲れているの」ブブは正直に答えます。「知ってるよ。君はステップを忘れて、体が動かなくなってる。さっきは別の木で休んでいただろう。そして幽霊に出会った。あれは俺の甥っ子さ」どこかから体に響く声はとても饒舌です。そしてブブにはどれひとつ飲み込めないのでした。「甥っ子?」ブブはいちばんの疑問を口にします。「俺たちは木だよ。君たちを何十

          ブブのながいはなし48

          ブブのながいはなし47

          「手を動かせない?」どこかから聞こえる声がブブに問いかけます。ブブは咄嗟に耳を塞いで、もう何も聞こえないんだと自分に言い聞かせていました。「君はやっぱり噂どおりだ」きっと幽霊なるものがまた声を飛ばします。「難しいことをしたがるんだね、君はコントロールが好きなようだ」声が止まりません。ブブは耳を塞いでいましたが、声ははっきり届いていました。耳から聞こえるというより、声が体に響いてくるのです。「君は簡単なことだけすればいいと思うんだ」なおも幽霊なるものは話しを続けます。もうブブは

          ブブのながいはなし47