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時間は存在しない
住まいの引越しと、オフィスの移転についての打ち合わせのために、東京までの往復の日々を忙しく過ごしている。
来春の引っ越しにはまだ少し早いが、どちらの件もなんとか契約にこぎつけた。
始発の新幹線から見る朝焼けが、まるで1日の終わりの夕空のよう。
暗かった空が青さを増し、白い朝がやってくる前に一度、薄桃色を見せてくれる。
一瞬、時間の感覚がおかしくなる。
ミッドナイトブルーの空から夕日に戻り、さらに昼の光へと、時間が巻き戻っていくのだ。
新幹線の時速300キロの進みが、時空の歪みを作り出すかのような錯覚を起こす。
私はいったいどこに連れられていくのか。
どの時代に戻って行き着くのか。
どの時点の自分なら、良いのだろうか。
物理学上では時間というものは存在しない。
もっと言えば、現在の中に過去も未来も全てある。
だから私たちは、これからの自分のことを知っていて、「こうなるだろうと思ってた」と呟きながら今を(未来を)生きる。
未来とは、思い出しながら生きるものだ。
この新幹線に今日乗ることになっていた。
この物件に契約することになっていた。
この人に出会うことになっていた。
運命とかいうものではなく、時間の観念。
朝焼けが夕焼けに見え、夜が来るのをどんなに想像しても、南に向かうトンネルを抜ければ、まぶしい陽光に目が眩む。
時間は存在せず、ここには、ただ淡々と今があるだけだ。未来を内包した今が。
ひと回りして家路に着いた真夜中。
部屋に戻るとアルバムを引っ張り出し、過去の写真を全て処分した。
ずいぶん、軽くなった。
これできっと朝焼けと夕焼けを見紛うことはない。
私が思い出すのは、未来なのだから。
断捨離に拍車がかかり、片っ端から物が減っていく。
もう何も要らないのではないか。瞬間瞬間を生きられれば、それでいいのでは。
瞬間。
いや、時間が存在しないものなら、私の中には何が残るのだろう。
私は何を手にできるのだろう。
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