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守護するムーンストーン



オニキスが喉を鳴らす音で我にかえって目を開けた
いつの間にか横で寝転がりながら毛繕いをしている

どれぐらい経ったかわからないけど急に重さを感じ始めた
反対側の隣にはアレックスが座っていた
びっくりした


「アレックス!」

何でいつもいつの間にか隣にいるの?


「瞑想してたの?」

「瞑想?」

「すごく気持ち良さそうだったよ それに」

それに?

「絵も素敵」

「絵⁉︎」


スケッチブックをみると水色と黄緑色とオレンジ色を使って模様を描いてる、、
自分でも驚いた

絵じゃなくてただの模様だけど確かに綺麗
でもいつの間に色を変えたんだろう
まったく記憶がない


「なにこれ⁉︎」
思わず声に出てしまった

アレックスは楽しそうに微かに微笑んでいた

女性は帰ったようだ

ぼーっとしているわたしにアレックスはレモングラスティーを持ってきてくれた
気だるさのなかゆっくりとそれを飲み干した


なんだろうこの不思議な感覚は
味わったことがない気だるい感じ
身体が重く、動かすのが億劫
何も考えられない
かといって疲れてるわけじゃない


「わたし、、何してたのかな、、、
アレックス? わたし どれくらいぼーっとしてた?」

「僕のセッションが終わったあと10分くらいかな」


そうだ、、、
アレックスがカード占いをしてたんだった、、
そのあと女の人を寝かせて何か始めてた、、

10分もぼーっとしたとこ、見られてたんだ、、
オニキスに気づいた時、わたし口も半開きになってたような、、
ちょっと恥ずかしい

店番みたいのを頼まれて落ち着こうとしてたら
身体の感覚も時間の感覚もなくなって
いつの間にかこうなってた


瞑想?
こういうのを瞑想というの?
そんなつもりなかったし
瞑想なんてやったこともない
でもなんだかまるで夢の中にいるみたいだった


「アレックス」

「なあに」

「アレックスはカード占いもするんだ
あれはタロット占い?」

「あれはタロットとかカード占いとは少し違うけど
道を示したりメッセージを受け取ったりする点では同じかな」

「タロット占いじゃないんだ」

「オラクルカードっていうものだよ」

「その後にやってたのは何?」

「あれはエネルギーワークだよ」


わからない言葉がどんどん出てくる
アレックスと出会ってまだひと月も経ってないのに
わからない言葉、わからないこと、不思議なこと 増えてきてる
占星術、カード、エネルギーワーク、瞑想、、、
今までのわたしが知ってると思ってたことも実は少し違っていたという事実もそう

ついていけるのかしら
何よりもこんな調子でわたしは変わっていけるのかしら


あの七夕の夜
アレックスに出会ってから
わたしはどんどん未知の世界に入り込んできてる
まだ少ししか経ってないのに日に日に加速度が増してきてる

わたしの周りには占いをする人もいなければ
占いを受けてる人もいなかった
いや、ひょっとしたら知らないだけで
受けてる人、、いたのかも
どちらにしろわたしには無縁の世界
MoonChildのようなお店にも来たことなかったし
瞑想なんて本や映画の中だけの出来事

また不安な気持ちがちらついてきたのかな
でもこの前とは感触が違う

こういったことにまだ慣れてないだけなんだと思いたい
変化が急過ぎるのかもしれない
とにかくアレックスを信じよう
アレックスを信じることは
わたしがアレックスに対して感じたものや
わたし自身の感覚とか思いを信じるってこと


「アンバー、ゆっくりでいいんだよ 急がなくていい
わからないことはまだわからないままでいい
自然とわかってくる
赤ちゃんが少しずつ、なんども繰り返し同じこ言葉を聞いて
同じ言葉を言って覚えていくのと同じように自然とね
むしろ初めに急ぎすぎるのは望ましくないこともある」


アレックスはいつもわたしの気持ちを察してくれて
安心感を与えてくれる
そんなつもりはないのかもしれないけど
でもそのおかげでわたしは落ち着きを取り戻すことができた


「ねえアレックス、聞きたいことがあるの、、、
あそこにあるティアドロップ型の半透明の白い石がついたネックレス、、、
あれは何?」


わたしはネックレスを指差した


「あれはムーンストーンのネックレスだよ
祖母が満月の夜に浄化させながら作ったんだ」

「初めてここへ来てあれに触れた時、変な感じ? 不思議な感じがしたの
触れた手が痺れたようなじんじんするような感覚があって温かくなったり、、」

「触れてみて感覚以外に何か感じた?」

「わからない でもなんか急にばーっと胸が熱くなったような
泣きたいわけじゃなかったのに急に涙が出てきたし なんか揺さぶられたような、、
怖かったからすぐに戻して別のところへ行ったの」

「もう一度、手に取ってみない?」

「え?」

「僕が隣にいるから」


どうしようか迷った
怖かった
でも興味も出てきた
なぜならアレックスが勧めてきたから

わたしひとりの時なら絶対に触らないと思う
でも決めた
アレックスが隣にいてくれるなら
何かあっても大丈夫
そんな気がした


「やってみる ちゃんと隣にいて
もし何かあったら、、、」

「大丈夫だよ」


彼を連れてその石のそばまできた

やっぱりなかなか手を伸ばすことは出来なかった

アレックスの顔をふと見た
すると優しく微笑み返してくれた


周りの音が聞こえなくなって
どきどきしてきた
自分の鼓動が聞こえはじめる
アレックスがそばにいてくれるのだけはわかった

そうだ
深呼吸だよ
わたしの好きな落ち着く方法

ゆっくり鼻と喉の奥で微かに音を鳴らすように
目を閉じて息をすった
同じようにゆっくりと息を吐いた

何回か続けると
波の音がまた聞こえ始め
風が吹いてわたしの髪をさーっと揺らしているのがわかった

一度目を開け両手で湧き水をすくうようにムーンストーンを持ち上げ
じっと見つめてから
大切なのものはここにある
そんなふうにぎゅっと胸に押し当て
また目を閉じた

なぜかはわからないけど
ぶわっと涙が滲み出た


ありがとう

ありがとう

ありがとう

ありがとう


はじめは胸の中で
次には頭の奥で
感謝の言葉は紡がれ
その後
自然と音をともなって口から言葉になって外へ出て現れた

怖い感じもなく
痛い感じもなく
ただ優しさに似たものが胸と両手から全身に拡がっていった

わたしは水の中で胎児のようにまるまりながら浮いていて
水面を通ってくる陽の光を受けている
太陽で温まった水に包まれているから
邪魔をするものは誰もいなくて
水の中なのに息はできる

陽の光の筋がわたしにそれを可能にさせているのかも
口から水面へと向かう吐き出した空気の泡が
光をキラキラ反射しているのがとても綺麗に映った
低い音と高い音がどこか遠くの方からかわたしの方へやってきた

穏やかで、、ただ ただ、安心でいられた

わたしはそっと目を開けた


「ガーディアンを見つけたね アンバー」

アレックスが優しくそう言った



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