【山形】宿坊に泊まって羽黒山と月山に登る旅 1日目
「国語便覧」という書名に聞き覚えはあるだろうか。小中学校の頃に教科書の副読本として配られるちょっと重いあの本だ。(地域差は一旦無視)
そこには松尾芭蕉のこのような一句が紹介されている。
この句について思うことは正直一つだけだった。
「月の山」なんて言葉が普通にズルすぎるだろ。
山形県にあるリアルに「月山(がっさん)」という名前の山を訪れて詠んだ句なのだという。しかも挿入されていた山の資料写真が美しく中学生の私は「グッ……!」と思った。
それ以来この山のことがなんとなく10年以上思考の片隅に引っかかっていたのだが、就職して軽く登山を始めだしたのもあり、ついに「これ実際に登れるんじゃ?」と思えてきたので決行した。
同時に、月山が修験道の山であるため、宿坊に泊まってみたいという願いも叶えられそうなことが判明し、さらにクラゲの展示が強いことで知られる加茂水族館にも近いため行かないわけにいかず、諸々を織り込んでざっくり下記のような旅程を組んだ。
2022年
9月10日(土)
東京→鶴岡
羽黒山を登り出羽三山神社参拝
宿坊泊
9月11日(日)
月山登山(8合目スタート、往復約6時間)
宿坊泊
9月12日(月)
鶴岡市立加茂水族館
鶴岡市内観光
鶴岡→東京
鶴岡・羽黒の宿坊街到着まで
新幹線で東京→新潟へ。特急いなほに乗り換えて鶴岡駅へ向かう。
この時はまだ全席自由席だった(2022年)ので、私は乗り換えるなり鼻息荒く座席の確保に急いだが、そんなことしなくても普通にスカスカだった。
列車が内陸部から沿岸部へ出ると、車窓から見える日本海の美しさに目を奪われた。
遠い場所に来ているという感覚を刺激する光景に、旅情スイッチが完全にオンになった。
13時前くらいに鶴岡駅に到着。羽黒山方面へ向かうバスを待つ。勿論かなり本数は限られている。
駅前には見た感じ10階以上の建物が何一つなく、空が広かった。
バスではPASMOを使うことができた。
走り始めて少しすると、窓の外には日に灼けて哀愁が漂っているアーケード商店街が見えた。どう頑張っても商いが成り立っているようには見えない家具屋や眼鏡屋などの店舗を横目に、人々の暮らしに勝手に思いを馳せる。
1時間ほど乗車して、宿坊近くのバス停「桜小路」で降車し、お世話になる「三光院」さんに荷物を置かせてもらうことにした。
羽黒の宿坊街には従来通り各地の修験者のみを受け入れている宿坊も存在しているが、三光院さんは観光客にも門を開いており、じゃらんでも予約可能というカジュアル寄りなスタンスだった。この辺りの是非は界隈で議論を呼んでいるらしい。
ここから羽黒山入り口の随神門までは徒歩5分程度。
参拝の前に近くのお店で蕎麦を食べた。飼われているふくよかめな猫が店内外をウロウロしている良い店だった。
羽黒山・出羽三山神社参拝
腹ごしらえをしたところで、出羽三山神社へ参拝する。時刻は14:45頃だった。
有名な五重塔は、入り口から5分も歩けばすぐに見えてくる。
建築界のイケメンと言いたくなる凛々しさがあり、すぐに好きになった。杉林の中に佇んでいるというポジションも素晴らしい。
ここからの参道は長い登り道が始まる。
道は低めの段差の石段になっていて、じわじわと足を苦しめていくが、杉林の間から差し込む光に照らされ、見た目には非常に美しい。
明日も山を登るくせに普通にへばっていたら、茶屋があったので何も考えずフラフラ入って、ギリギリの息遣いで餅と抹茶を注文した。
羽黒山参道には三つの坂があり、ここは最も急なニノ坂を登ったところにある「二ノ坂茶屋」だ。
この時15:00頃だったが、私が入ったタイミングで店仕舞いとなり、私が出ると店も施錠された。
ぎりぎり間に合わなかったカップルが店の前でへばっていて気の毒だった。
この辺りから、立ち止まって息を整えている人の姿が増え始める。私の登山靴を指しながら「ちゃんとした靴で来た方がいいね」と話している人がいて得意に思う反面、装備の割に普通に疲れているのがなんとなくお恥ずかしかった。
茶屋から20分程度かけて、ようやく頂上へ来た。
本殿でお詣りして、五重塔が描かれた御朱印帳があったため頂いてきた。めっちゃかっこいい。
その後は辺りをうろうろ。登りきったという達成感で何を見ても無性にありがたかった。
十分に休憩もできたところで、来た道を下って戻る。下りだからとナメていたが、この道のりがかなり怖かった。登る時はあまり気にならなかったが、降りてみると一段一段が狭く、油断すると踏み外しそうになるのだ。雨の日は絶対に避けたほうが良い。
一瞬たりとも気が抜けなかったが、帰り道の風景も美しくはあった。
宿坊に戻って夕食の時間まで休憩。食事の時間は夜6時、朝7時と決まっていた。(早朝に用事がある人は調整可)
テレビを点けると「ラブオールプレー」というバドミントンのアニメをやっていて、試合回だったので、普通に知らない高校生の試合を見ている感じになった。
時間になって食堂へ向かうと、私の他にも5組ほどの宿泊客がいた。
箸を休めずに普通に食べていたから、喋り相手がいない私は当然他より早く食べ終える気でいたが、同じ一人客だけでなく他の数人連れもみんな私より早く食べ終えて食堂を出て行ったので本当に焦った。
小学校の頃、食べるのが遅くなって掃除の時間が始まり、教室の後ろに寄せられた机の間に座って食べ続けていた頃の感覚を思い出したりした。
五重塔がライトアップされている時期だったので、食後に歩いて見に行った。
昼に見ても夜に見てもイケメンすぎる。
歩いて宿坊へ戻りがてら、暗闇にある自販機で飲み物を買ったが、自販機の微かな光にえげつないほど虫が集っており、手にでかめの甲虫がとまって一人で叫んでしまった。
宿坊に戻って入浴。温泉ではないが、水道の水も湯船の水も柔らかい水質だった。
早めの時間に就寝して明日の朝に備える。