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【2022.6.5 パリ】気候変動について学べるLA FRESQUE DU CLIMATに参加してみた

こんにちは🌞

あっという間に6月ですね。。前回の記事の最初に、5月からは本格的に暖かくなりそうと書きましたが、5月でも朝晩は涼しく、長袖が手放せない日も続いていました。6月は日本では梅雨ですが、フランスでは明確な梅雨というものはありません。ただ、天気予報を見ると来週は雨の日が多いようです。
フランスは一般的にじめじめ感はなくカラッとしていて過ごしやすいのですが、近年は蒸し暑い日が続いたり、夏は40℃超えという日があったり、いつもの気候と違うなと感じさせられることが多くなっているように感じます。

さて、そんな気候の変化について学べるワークショップ、LA FRESQUE DU CLIMATに先日参加してきたので、今回はその内容や感想をまとめてみようと思います。(読了目安、8分です)

1. LA FRESQUE DU CLIMATとは?

フランスで、2018年12月にCédric Ringenbach氏によって設立された非営利団体(アソシエーション)で、気候変動に関する国民の意識を高めることを目的として、ゲーム感覚で楽しめるワークショップを開催しています(サイトはこちら)。Ringenbach氏は、もともとはエンジニアでしたが、2008年頃からIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書の研究に取り組み、2010年以降は、シンク・タンクでの脱炭素化に向けたプロジェクトの主宰や、気候問題・エネルギー分野での高等教育や学会での発表を行っています。そして、IPCCの報告書をもとに、2015年にLA FRESQUE DU CLIMATというカードゲームを作り、その普及に務めるための団体を2018年に設立しました。LA FRESQUE DU CLIMATという名称は、ゲーム名でもあり団体名でもあります。

2. LA FRESQUE DU CLIMATの内容は?

ワークショップは3時間を要し、なかなかの長丁場です。基本的に下記3つのフェーズで構成され、ファシリテーターが流れを説明し、進行します。一般人向けワークショップのファシリテーターは、講習を受けることで誰でもなることができるので、毎回同じ人がワークショップを行うとは限りません。内容にアレンジを加えたりと、ファシリテーターの個性も活かせる場になっています。

  1.  参加者全員で、気候変動の原因と結果が記された42枚のカードをコラージュする

  2. 作ったコラージュの周りに、参加者が自由な発想で装飾し、タイトルをつける

  3. 参加者がそれぞれ感じたことを表現し、気候変動に対処するために個人でできること、または集団でできることを話し合う

実際のコラージュ

3. LA FRESQUE DU CLIMATの語源は?

fresqueは、主要の意味は「フレスコ画」というイタリアで生まれた壁画の技法のことで、イタリア語の「フレスコ=新鮮な、生気のある」という形容詞に由来しますが、一般的に壁画全体や壁画作品そのものを指す言葉としても使われます。また、「ある時代全体を描いた大規模な文学作品」という別の意味もあります。LA FRESQUE DU CLIMATは、両方の意味合いが備わっているように思い、カードをコラージュしながら気候変動の全体像を壁画のように描くというゲーム内容とできたその作品、を反映した名称なのかなと思います。laは冠詞で英語のtheと同じ役割、duは「の」を表し、climatは「気候」を表します。

4. LA FRESQUE DU CLIMATの普及対象者は?

一般人向けのワークショップも各地で行われていますが、特に力を入れているのは教育機関や企業を対象とした普及のようです。2019年9月からは、教育機関向けに「Rentrée Climat(直訳:新学期の気候)」プログラムとして、学生たちのワークショップへの参加を推奨し、これまでに10万人以上の学生が参加したとHPに書かれています(下記添付参照)。

https://fresqueduclimat.org/enseignement/

また、ビジネス界では、2020年6月にフランスの大手グループ会社のSUEZが初の提携を公表し、全世界の9万人の従業員にワークショップを行うことを約束しました。SUEZは廃棄物と水の処理事業を行っている会社です。それに続いて、大手電力会社であるEDFも16万5千人の従業員へのワークショップ提供のために協力することを公表しました。
これから未来を担っていく学生たちや、影響力の大きい大企業の従業員たちへの意識付けは確かに優先順位が高いといえます。

5. LA FRESQUE DU CLIMATの参加費と参加人数は?

一般人向けのワークショップの参加費は基本的に10€ですが、場所によっては無料のところもありました。また、学生や失業者は10€より低い額で設定することができたり、10€にプラスした額を支払うことで寄付することもできたりとフレキシブルです。
企業や学校単位での参加費は実際に問い合わせてみないとわかりませんが、団体割引があるようです。

一般人向けのワークショップは、参加人数5~20名で設定されているところが多いです。

6. LA FRESQUE DU CLIMATの開催場所は?

パリを始めとしたフランス各地、世界の各地、またオンラインで行われています。パリでは週1回のペースで、カフェやショップの一角、イベント会場などどこかしらで開催されています。場所によっては1ヶ月先まで満席なことも。!それほど参加者もファシリテーターも多くいるということがうかがえます。
下記はLA FRESQUE DU CLIMATの支部がある場所のマップです。国内は多数、ヨーロッパもほぼ主要な国に存在し、アジアは日本にもあります。アメリカと南アメリカにはまだ進出していません。

フランス国内のマップ
ヨーロッパを中心としたマップ
アジアを中心としたマップ

7. LA FRESQUE DU CLIMATの多言語対応は?

コラージュに使われるカードは、現在40以上の言語で翻訳がされており、日本語もあります。サイト上で一般公開されており、無料でダウンロードできるので、自宅などで印刷して使用できます。また、日本でもワークショップが開催されており、Facebookページで情報を確認したり問い合わせたりすることができます。

8. LA FRESQUE DU CLIMATの他バージョンは?

LA FRESQUE DU CLIMATをもとにした、他のテーマのワークショップも多数存在し、下記に一部を載せています。実際には20以上もあり、こちらから確認できます。
他のテーマのものは、日本での開催や日本語対応はまだされていないようです。

  1. La Fresque Océane(海洋)

  2. La Fresque de la Biodiversité(生態系)

  3. La Fresque du Numérique(デジタル)

  4. La Fresque des Déchets(ゴミ)

  5. La Fresque de l'Alimentation(食)

  6. La Fresque du Textile(布製品)

  7. La Fresque de l'économie ciculaire(サーキュラーエコノミー)

9. LA FRESQUE DU CLIMATの参加体験談

わたしが参加したワークショップでは、ファシリテーターは女性1人+男性1人で行われました。女性のほうがベテランのようで、男性の進め方を見ながらアドバイスをしたり、説明を補足したりしていました。わたしは日本人の友人と参加し、参加者は全部で6人、すべて女性でした。おそらく周りの4人はすべてフランス人で個々で参加しており、年代は様々。高校の先生や自転車のインストラクター、主婦の方など職業も様々でした。

💡フェーズ1

最初はコラージュです。ランダムに配られたカードの裏面の文章を読み上げ、そのカードは気候変動の「原因」か「結果」かを皆で話しながら、白紙の上に並べていきます。42枚もカードがあるので4ターンに分けられ、1ターン終了ごとに、参加者がファシリテーターに対してコラージュの因果関係を口頭で説明し、ファシリテーターがその説明やそれぞれのカードについて補足説明を加える、という流れでした。

4ターンを終えたら、気候変動とその原因、それによって引き起こされている問題の相関図ができあがります。要因と事象が複雑に絡み合い連動していることが視覚化されるので、今まで単独で頭の中に存在していたひとつひとつの事象や知識が繋がり、より深い理解ができた感覚を得られました。
相関図の大元と結果は、とってもシンプルに、人間の経済活動が気候変動を起こし、巡り巡って人間に被害を与えているという現実を浮かび上がらせます。
参加者のひとりが、「被害を受けている人間は、今までは発展途上国の人々というイメージが強かったが、現代においては先進国のわたしたちも食糧不足や自然災害などを経験することが増えてきており、全人類が対象になっている」と述べていたのが印象的でした。

💡フェーズ2

次はコラージュの周りに矢印や絵、コメントや思ったことなどを自由に書いていきます。わたしたちがつけたタイトルは「CHANGEONS!」=「変えよう!」。率直な気持ちを大事にして、行動に変えていきたいです。

思い思いにフレスコ画を彩る

この後、参加者がそれぞれ、コラージュを終えてみて湧き上がってきた感情を、具体的な説明とともに発表する場がありました。「怒り」「驚き」「恐れ」「悲しみ」。。わたし自身も様々な感情に支配されましたが、「怒り」や「恐れ」とともに「モチベーションが湧く気持ち」にもなりました。それはやはり今回のような場で、環境問題に対して意識を持つ人々が集まり、交流したり話し合いをしたりすることで、ひとりではないことを強く感じたからです。ひとりで行動を始めるのは相当に勇気がいることですが(なのでわたしはグレタさんを本当に尊敬しています)、同じ気持ちを持つ仲間と団結することで、行動の一歩が踏み出せるのです。

自転車インストラクターである参加者のひとりが、友人たちにも毎日の通勤に自転車を勧めたがなかなか始める様子がなかったので、ある日自分も一緒に友人の職場に自転車で付き合うことを提案してやってみたところ、あとはひとりで自転車通勤するようになった、という体験談を述べていたことが印象的でした。また、他の参加者で「環境問題に関心の薄い人たちが取り巻く中で、ひとりで行動していることに孤独や無力感を感じていたが、今回ここで同じ意識を持つ幅広い世代の人と関わりあえて勇気をもらえた」という感想を述べている方がいて、まさにわたしも同じ気持ちでした。

💡フェーズ3

最後は、2016年に発行されたパリ協定での「世界の平均気温上昇を、産業革命(1760年~1830年)以前に比べて1.5℃に抑える努力をする」という目標を達成するために、CO2排出の削減の面で、ひとりひとりが生活にどのような変化を取り入れていくべきかについて考えました。別の非営利団体であるRésistance Climatiqueが提供する「Inventons nos vies bas carbone(低炭素社会を実現しよう、という意)」のゲームキットを使用します。

Inventons nos vies bas carboneのカードを吊るす

このゲームキットは、フランス政府のMinistère de la Transition écologique et solidaire(環境連帯移行省)が算出している、フランス人の年間平均CO2排出量に基づいて作成されており、現状とパリ協定の目標に沿った場合の大きなギャップを可視化することで、日々の生活における国民の強い環境意識と行動意欲を駆り立てることを目的としています。CO2排出量の計測は、NAFコード(※)で表される64の活動または製品の分野に分けられ、民間と公共の部門に分けられているため、どの排出量がどちらの部門に関連するかを知ることができ、これらのデータから、食、住居、交通、購買、公共サービスの5つのカテゴリに分類されています。

※:フランスの国立統計経済研究所から発行される、企業の主要活動に関するコード。主に統計に利用される。

2016年2月~12月の計測によると、フランス人ひとりあたりの年間平均CO2排出量は約12トン(2022年の報告では9トンとなっています)で、キットはこの2016年の数値を参考に作られているようです。ちなみに近年の日本人ひとりあたりの年間平均CO2排出量も約9~10トンのようですが、日本の人口はフランスの約2倍なので総排出量にすると日本のほうが圧倒的に多いです。ただ、計測方法は各国で統一されているわけではないので、全く同じ条件ではないことを頭に入れておく必要があります。
2016年のフランス人の年間平均CO2排出量12トン/人を、上述の5カテゴリーに分類すると下記の内訳となります。

  1. 食:2.4トン

  2. 住居:2.7トン

  3. 交通:2.9トン

  4. 購買:2.6トン

  5. 公共サービス:1.5トン

そしてパリ協定の目標にそぐわせるには、この年間排出量を2トン/人にする必要があるとのこと。!量を6分の1にする、、つまり、ひとりあたり80%以上の排出削減が求められているのです。まさに大きなギャップを突きつけられた感覚です。。。
12トン/人という数値は、平均的な生活をしているフランス人のものなので、通常よりも肉食を控えていたり、車の使用を控えていたりすれば、もちろん12トンよりも少ない数値になります。これをより2トンに近づけていくため、日常生活で当たり前のように発生している選択や判断基準の変化が、今からひとりひとりに求められるのです。

ではどういう変化が効果的なのか。何を避けるべきなのか。それを考えるうえで役立つのがこのキットです。
例えば、

  • パリとニューヨークを飛行機で一往復するだけで、既に1.8トン/人のCO2排出量になること

  • 1日1食の肉を取り入れた生活だと年間排出量は2.2トン/人だが、すべて菜食に移行すると0.9トン/人になり、さらに菜食、かつローカルでオーガニックで旬のもののみで構成された食生活にすると0.3トン/人になること

  • 2000~5000€の新商品の買い物をすることで2トン/人の排出量になること

  • 着回しに必要な洋服一式を1年で買い替えると1.4トン/人の排出量になること

などなど、カテゴリーごとの行動に対するCO2排出量が書かれているので、それを目安に、自分のライフスタイルと照らし合わせながらどこを削減できるか、を思考できるのです。

もちろん、今後でCO2排出を削減した燃料による飛行機の運行が実現するかもしれませんし、近年ではCO2排出を始めとする社会問題に配慮した服や雑貨が増えてきているので、上述の排出量の目安も変わってくるかと思います。また、木や植物はCO2を取り込み酸素に変えるため、植林活動や家庭菜園を始めることで、排出したCO2を相殺できるという考え方(カーボン・オフセット)も数値化に寄与していけるかもしれません。ただそれでも、年間で2トン/人の排出量に抑えるには、数多くの変化を起こしていかなければならないことは明白です。

このキットで学んだ後に、自分が個人として始めたいことと集団で始めたいことを発表しました。移動はできるだけ自転車にする、旅行は飛行機を使わず電車で行ける範囲にする、チーズの消費量を減らす、コンポストを始める、節電する、自分がファシリテーターになってこのワークショップを子供たちに行う、などみんなそれぞれの目標を設定し、このワークショップは終了しました。

💡フォローアップ

ワークショップの翌日にメールが送られてきて、参加への感謝とファシリテーターになるためのお誘い、今後で行われる他のワークショップの情報、行動を変えるために参考になるサイトなどが載っていました。きっかけを与え行動を促し、さらに広めるまでの流れがしっかりデザインされているなという印象でした。

10. おわりに

今回のワークショップ参加を通して、これからは、同じ意識を持つ人がリアルで繋がり、話し合いや議論ができる場所が増えること、そしてその場への参加のしやすさや、そういった場があるという情報へのアクセスのしやすさがより求められるようになると強く感じました。フランスでは、デモやストライキが起こるとき、非営利団体が標語を掲げるとき、大統領から国民へ演説するとき、など「協力」を呼びかける様々な場面で「solidarité(連帯)」という言葉が使われます。この気候問題に立ち向かうための重要なキーワードでもあると思います。

わたしもそうですが、環境問題に対して意識はあるけど、何から行動を変えたらいいかわからない、ひとりではなかなか一歩が踏み出せないし、ひとりでは続かない、という人々が大多数だと思います。そんな人たちが気軽に集まって繋がり話せる場、勇気をもらえ希望を持てる場が身近にあったら。。そして自分はそこにどう貢献していくのがいいのか。。
もちろんオンラインやSNSでもいいのですが、わたしはやはり直接会うことがより強固な結束と連帯感を生むと思いました。こういったワークショップや団体の活動に積極的に参加しながら、自分の生活に変化を取り入れつつ、社会に対してできることを模索していこうと思います。

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