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いい記事を「速く」「たくさん」書く方法 【関西ライターズ リビングルームオンライン!】講義レポート

毎月第4水曜日、ある有益な、オンラインイベントがある。

その名も、「関西ライターズリビングルームオンライン!」。

イベントの主宰は、ライター、放送作家として活躍中の吉村智樹さん。

関西弁の吉村さんの進行が楽しくて、わたしはすっかりファンになってしまった。今回が二度目の参加である。

ゲストは、シンガーソングライター・中将タカノリさん

今回のゲストは、中将(ちゅうじょう)タカノリさん。テーマは、いい記事を「速く」「たくさん」書く方法だ。

中将さんは、「まいどなニュース」「ガジェット通信」「All About」「デイリースポーツ」などの取材記事や音楽批評を、月に50本以上も納品している。

月50本……!?

思わず耳を疑った。

もちろん、「速く」「たくさん」といってもコピーペーストしまくりの記事では信用を失う。「速く」「たくさん」でありながら「いい記事」である必要がある。

しかし、中将さんは「速く」「たくさん」そして「いい記事」なのだ。ぜひ記事を読んでほしい。記事の動機が明確で取材も過不足なく、なおかつ文章がべらぼうに美しい。

「まいどなニュース」では1日2~3本も記事を更新している。鬼はやい……。

そんな中将さんの本業はシンガーソングライターというのだから驚きだ。

ライターを本業にしている方よりもたくさん書いていることに着目したのが、今回のオンライン講義である。主宰の吉村さん自身も「なにかウラ技があるのかも…」という欲求に駆られたそうだ。

オンライン上に現れた中将さんは、まさにミュージシャンといった風貌で、ウェーブがかった黒髪がめちゃめちゃカッコイイ。バラのイラストが描かれた黒シャツをさらりと着こなし、一周まわって新しいような個性的な雰囲気で、画面から「只者じゃないオーラ」が溢れていた。

沢田研二に衝撃を受けて、ミュージシャンを志す

奈良県出身の中将さんは、少年期に沢田研二さんに衝撃を受けミュージシャンを志す。2005年、加賀テツヤさん(ザ・リンド&リンダース)の薦めで芸能活動をスタートさせ、若手として注目を集めた。

2012年師匠である加賀テツヤさんが亡くなったことを受け、中将さんは「大切な人の功績を何か形に残せないだろうか」と感じたそうだ。

そんな想いが重なった結果、書く仕事に結びついたという。

1日数本書くSNSトレンドに、まったく関心がない!?

近年、中将さんは音楽評論家として文筆業、コメンテーター業にも積極的に取り組み、メディアを通じ音楽・芸能文化やSNSトレンドについて紹介している。

最近の執筆数を問われると、やんわりとした口調で「1日10本以上になることはないかな?」と返す。

「つまり、9本は書いてるわけですね…!どひゃ~」吉村さんがたじろぐ。

「僕なんて1日1本書き終わらない日があるのにね。同じ1日で何本も書いてるなんておそろしい!」と吉村さん。わたしも驚きを隠せなかった。

そして執筆時間について話題が膨らむ。「ネタが揃っていたら、1本30分です」と中将さん。

1本30分ですと…!?

中将さんいわく、「自分の中である程度の型があって、それを元に書いている」そうだ。その型をぜひ拝見したいものだ。

「くどくど書かないようにしてます。インタビューした人の話が引き立つように書こうと思うだけで」と中将さんはいう。

「思い入れがありすぎると、時間をかけてしまうものかもしれないですね。語弊があるかもしれないけど、SNSトレンドに関しては、僕、何の関心もないんですよ。だから客観的に記事の体裁をつくろって書けるのかなと思います」とも。

な、なるほど。これはなかなか興味深い。がんばるほど蛇足が増えて、読者の心に届かないこともある。読者には素早く、わかりやすく届けたいものだ。

ただ、数十本書いていると、「型以上のことを書きたいな」と思うことがあるそうだ。「反骨精神というか。世の中に訴えかけるトピックスは、くわしく書きたいなと思いますね」と中将さん。

ネタ探しはどうやって?

話題は次に移り、「爆速に記事を書く中将さんは、どうやってネタを探しているんですか?」と吉村さんが質問。

中将さんは、普段からTwitterをチェックしており、気になるネタはスクリーンショットしているそうだ。また、自分の好きなネタをリツイートしている方をフォローして、参考にしているそうだ。

「何時にチェックしてる?」という質問には、「昼はツイートする方が多いので、バズが埋もれやすい。僕は寝る時間が不規則なんですけど、深夜3時から4時がバズッてるネタを見つけることが多いです」と中将さん。

「波が引いたあとに、魚が打ち上げられているような感じかぁ」と吉村さん。たとえが最高です…。

「取材したいと思ったらどうやって許可をとるの?」という質問には、「SNSトレンドについて書くときは、TwitterでDMを送って取材申請します」とのこと。

「どんな文面なんです?」と吉村さん。

「定型文を作ってまして、注意事項や質問事項を一通で全部送っちゃいます」と中将さん。

一瞬の静けさが生まれた。

「…ちょっと待って。今すごいことおっしゃってますけども。質問事項を一通目で送っちゃうんですか?」と吉村さんが神妙な顔で問いかける。視聴者は次の言葉をじっと待つ。

「以前は依頼文と質問事項を分けて送っていたんですが、相手に『面倒だな…』と思わせているような気がしたんです。それに『いったいどんな質問をされるんだろう?』と不安を感じるかもしれないですよね。一緒に送った方が、双方にとってもいいと思ってます」と中将さん。

ある意味合理的で、相手にもやさしいならその方法がベストだろう。中将さんの依頼文をぜひ拝見したいと思った。

「取材はどのように行ってらっしゃるんですか?」という質問には、「そのまま質問に返信してもらって、その文章を再構成してます」とのこと。

まさかのアンケート方式。中将さんの美しい取材記事は、アンケートから生まれていた…。

これを受けて吉村さんは、「直接取材しなきゃだめってことはないなと、僕も最近思うんですよ。テキストの方が齟齬がないですし。最近オンラインで取材することが増えましたけど、マスクしている人が多くて声が聞き取れないことがあって…。相手の書いた言葉をまとめる方が、ご本人の気持ちがブレにくいよなぁ」と感慨深げだった。

ちなみに、Twitterの設定上DMを送れない方へは、タイムラインから依頼するそうだ。「それは逃げ場ないですね(笑)」と吉村さん。

ライターの精神的比重が3割だから、早く書ける!?

ここで、集中力の話題に移る。「30分で書き上げる集中力ってどうされてるんですか?」と吉村さん。うん、聞きたい。だってすぐ集中力が切れてしまうんだもの。

「いろんなやり方を試してみましたが、何が一番向いているかと思ったとき、眠くなる状態はだめだなと。気合いがみなぎっているときに書こうと思うようになりましたね」と中将さん。毎日よく寝る。気合いがみなぎっている状態をつくる。嫌なときは書かない。それを徹底しているそうだ。

また意外だったのは、テレビを見ながら書いていることもあるそうだ。記事を書くときはそこまで全集中ではないらしい。「音楽をつくるときは全集中ですけどもね」と中将さんはいう。

「僕思ったんですけどね、中将さんの本業は音楽家で、ライターの精神的比重が3割くらいだから早く書けるんじゃないかなって思うんですけど、どうなんでしょう?」と吉村さん。

「それは自分自身でもそう感じますね」と中将さん。

「なるほど。『わたしはもうライターとしてやっていくんだ! 人の心に寄り添いながら生きていくんだ!』と手を握り締めてると、書くのが遅くなっていくような感じかぁ」と吉村さん。これ、わたしだな…(笑)

「もっとたくさん書かなきゃダメだよなぁ。最近は満遍なく書く方が大切なんじゃないかなって思いますもの。1日2本書くライターの方が、読者に覚えてもらえますよね」と吉村さんはいう。

肩の力を抜きながら書くことが、「速さ」と「量」を生んでいるのか。なんだか骨身に染みた。

文章にリズム感がある

中将さんの文章は、心地よいリズムを感じる。

そこで「音楽を生業にすることが、文章に生きていると思いますか?」という質問だ。

「たしかにリズムは意識しています。シンガーソングライターとして歌詞も書いているので、美しくない表現は書きたくないなと。歌詞を作る作業は、ストーリーや世界観を想像してそれを何百文字に圧縮するものなので、同じような意識で書いているような気がします」

この話を受けて、ライターは芸術家と名乗っていいんじゃないかと思った。読むだけで心地よい記事。そんな記事を「速く」「たくさん」生み出す中将さんに、わたしは憧れた。

さて、まだまだ書き足りないのだが筆を置こう。

チャットで質問した内容に回答いただいたので、それを締めの言葉としたい。

わたしの質問:「記事のタイトルはどのように決めていますか?」
中将さん:「できるだけ端的につけたいと思っています。イメージとしては、歌詞のサビのリフレインですね」

タイトルは、歌詞のサビのリフレイン…! なんてかっこいいんだろう。

この日から、歌いながらタイトルを考えるようになりました。

中将さん、吉村さん、すばらしい学びの時間をありがとうございました!

(記:池田アユリ)





お読みいただきありがとうございました! いい記事を書けるよう、精進します!