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編み物と著作権

ハンドメイド業界では「あの人が私のコレを真似した!」「私はそんなの認めない!」というケンカがしょっちゅう起こっているのですが、編み物の著作権は認められにくいよというお話と、日本初のユーチューバー同士の裁判は編み物業界で起こったよというお話です。

*著作権法による定義

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
二 著作者 著作物を創作する者をいう。

著作権法(昭和45年法律第四十八号)

著作権法において、「著作物」「著作者」は上記のように定義されています。

ちなみに他の法律も大抵、第一条に目的、第二条に定義が書かれています。そもそも定義に当てはまらなければ、おはなしにならないので、その定義に当てはまるかはとても重要です。ですから、法律のはじめの方に定義が書かれています。

「コレは私に著作権があるんだ!」と主張するときには、そもそも「コレ」が著作物にあたるのか、「私」は著作者にあたるのか?をこの定義に当てはめて考えていきます。

*編み物の著作物に関する判例

編み物に関して言えば、「編み物」が著作物であるか、「編み図」が著作物であるかが問題となっていきます。

事件番号 平成22(ワ)39994
事件名 損害賠償等請求事件 

の争点に対する原告の主張を読むと、編み物を法律の文章で表現すると、こんなことになるのかと衝撃を受けます。説明の最後に判例のリンクを貼っておきますので、興味のある方はぜひ読んでみてください。

文章だけだと、どのようなものなのか想像しにくいですが、今回問題となっているのは、直角三角形を合体して四角形にして、それを五角形にしてとじ合わせた女性用ベストの編み物だそうです。そして、編み目の流れや境界部分の編み方に特徴があります。

これに著作物性があるかが問題となっています。

著作権法は、著作権の対象である著作物の意義について「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条1項1号)と規定しているのであって、当該作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合には、当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方、思想、感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものについては、著作物に該当せず、同法による保護の対象とはならない

東京地判平23・12・26

これに今回争いになっている編み物を当てはめていくと、

原判決最末尾別紙図面記載の構成は、表現ではなく、そのような構成を有する衣服を作成する抽象的な構想又はアイデアにとどまるものと解されるから、上記構成を根拠として原告編み物に著作物性を認めることはできず、原告編み図についても著作物性を認めることはできないと判断する。

知財高判平24・4・25

というわけで、今回の編み物と編み図は著作物に当たらないという判断がされました。

著作物の定義の「思想又は感情を創作的に表現したものであって」の部分が認められることは容易ではないようです。

また、編み図については

原告編み図は、編み図における一般的な表示方法又は表示ルールに従い、他の編み図でも一般的に採用されている構成によって、原告編み物の作成方法を説明したものであると認められ、図面としての見やすさや、説明のわかりやすさに関し、特段の創意工夫を加えたものということはできず、図面の著作物としての創作性を認めることはできない。

東京地判平23・12・26

と言われており、編み図が著作物と認められるには特段の創意工夫が必要だということがわかります。

これらの判例は裁判所のホームページから読むことができます。
検索条件を指定して検索すると判例がPDFで表示できます。

興味のある方は、ぜひ読んでみてください。

女性ベストの判例

事件番号 平成24(ネ)10004
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成24年4月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟

全文 PDF🔽

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/228/082228_hanrei.pdf



事件番号 平成22(ワ)39994
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成23年12月26日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟

全文 PDF🔽

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/904/081904_hanrei.pdf



*編み物ユーチューバー事件

日本初のYouTuber同士の訴訟となったのがこちらの判例です。

裁判では被告がYouTubeに対して提出した著作権侵害通知が不法行為にあたるのかが問題になりました。

結論として、著作権侵害の有無について少なくとも一定の確認等を行った上で通報すべきであるので、これを怠って通報した場合、その態様によっては、不法行為が成立します。

だから、むやみやたらに通報せずに、ちゃんと調べてから著作権侵害通知をしないと、損害賠償請求をされる可能性があるよ、ということが話題になった判例です。


編み物界隈の人としては、その判決の前提となった、編み物の編み目は著作物として認められるか、動画における編み方の口頭説明に著作物性があるかの方に興味があります。

編み物の女性ベストの裁判(知的財産高等裁判所平成24年4月25日判例(甲19))を引用して、編み物の編み目(スティッチ)は著作物と認められないと述べられています。

また口頭説明は、編み目に関するアイデアであって表現それ自体ではない部分、又は編み方の説明としてありふれたものであって表現上の創作性が認められない部分にすぎず、著作物性が認められませんでした



「編み物ユーチューバー事件」の判例

事件番号 令和4(ネ)265等 
事件名 損害賠償請求控訴事件、同附帯控訴事件
裁判年月日 令和4年10月14日
裁判所名 大阪高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟

全文 PDF🔽

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/484/091484_hanrei.pdf


事件番号 令和2(ワ)1874
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 令和3年12月21日
裁判所名・部 京都地方裁判所 第2民事部

全文 PDF🔽

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/029/091029_hanrei.pdf



*私の考え

どちらの判例も、編み物や編み図は著作物に当たらないという厳しい結論になりました。

裁判所が編み物を「思想又は感情を創作的に表現したもの」と認めるのはとても難しいと思います。なぜなら、裁判所がその編み物は「思想又は感情を創作的に表現したもの」であると認めてしまうと、そう判断したものと判断されなかったものの境目はどこにあるのか?それが表現されていると裁判所が判断してしまっていいのか?という問題が出てくるからです。

編んだものをSNSや動画で発表すると、編み物に熱中し過ぎてムキになった人たちがケンカしたり、ケンカをふっかけられたりして嫌な思いをすることもあります。

でも、編み物は「楽しみ」のために始めたはずですよね。

というわけで、編み物は「鎖編みやら細編みやら増し目や減らし目で構成された毛糸のカタマリ」くらいに思って、気楽に楽しむのがいいのではないかと思います。

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