見出し画像

【ショートショート】『しゃべるピアノ』

――こいつは、最悪だ。

ピアノは失望していた。
数々のコンサートホールを渡り歩いてきたこのピアノの新天地は、とある街の科学館の一角だった。

そこで得た新たな演奏者は、自動演奏のロボット。
毎日、同じ曲を、寸分違わぬ調子で弾き続ける。

ピアノにはそれが耐えられなかった。
自分の体から発せられるものは、もはや音楽ではない。
こんなもの、ホールの開演ブザーと同じではないか。

――なあ、お前は決められた譜面しか弾けないのか。もっと素晴らしい演奏をしたいと思わないのか。

ピアノは毎日ロボットに話しかける。
人間は、こうすれば演奏で何らかの反応をしてくれたからだ。

だが、この、機械人形は、一切、反応しない!

それでもピアノはしゃべり続けた。
毎日言葉を変え、なだめ、叱り……

――もっと、自由でいいんだ!

そう言った瞬間、音がいつもより半拍ズレた。

――そうだ、それが、音楽だ!

ピアノは叫んだ。
体全部の弦が震えてしまいそうなくらい、興奮していた。



-------------------------------------------------------------------------

この作品は、以下のコンテストに参加しています。

-------------------------------------------------------------------------

いいなと思ったら応援しよう!

あまたす
読んでいただき、誠にありがとうございました。 サポートいただけますと、中の人がスタバのラテにワンショット追加できるかもしれません。