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【ショートショート】記念撮影クリスマスリース(青版)

『この前のイルミネーション、きれいだったね! 一緒に行ってくれてありがとう!』
――送信。

『あのとき大きなリースの前で撮ってもらった写真、送るね! なんか私、風で髪がすごいことになってるけど……』
――送信。呆れ顔のかわいいスタンプも一緒に。

――そして、写真を送信する、……と。


彼氏にいつものテンションでメッセージを送ると、私はベッドに倒れ込んだ。
いつも彼氏とのやりとりはこんな感じだ。ひととおり送ると、どっと疲れが出る。
どんなテンションで文章を書けばいいか、どのスタンプがふさわしいか、そんなことを考えてしまうから。


手に持ったままのスマホを顔の上に掲げる。
さっき送信した写真が表示されたままだ。

この前、デートでイルミネーションを見に行って、記念撮影スポットになっていた大きなクリスマスリースの前で撮ってもらった写真。
私は精一杯のおしゃれをして、彼氏の隣で精一杯の笑顔を見せていた。
ふたりの後ろには、たくさんのオーナメントで飾られた、キラキラして、きれいなクリスマスリース。

けれど、その中心はただの空洞だ。

彼と私も、似たようなものかもしれない。
お互いの部屋にまるで同棲ごっこみたいに数日泊まったり、話題の場所にデートに行ったり、誕生日やイベントのたびに値が張るプレゼントを贈り合ってみたり。

キラキラとした恋人同士を続けているけれど、本当だったらその中心に据えておかなければならないはずのものは、いつまでたっても空っぽのまま。
そう、お互いの年齢のこと、家のこと、そして結婚のことは、ただの一度さえ会話に出したことはないのだ。


この先は?
5年後は?
10年後もこのままでいられる?

このままでいられなかったら、どうする?


お互い、その中心の空洞だけは細心の注意を払って見ないようにして過ごしてきた。
恋人同士のこの楽しさに水を差すことになってしまったら。キラキラした世界が、壊れてしまったら。
そう思うと、空洞のことは聞けないでいた。……少なくとも私は。

けれど、周りの友達が、職場の後輩が、その中心をはやばやと埋めては幸せそうに笑っているのを見るたび、私は「自分はこのままでも幸せだ」と言える自信をなくしていく。


この先も?
5年後も?
10年後もまだこのままでいいの?

このままでいるつもりなの、本当に?

このままでいられるとでも、思っているの?


そこまで考えた時、写真から、ひゅう、と冷たい風が吹いた気がした。
風は私の胸の真ん中を吹き抜けていく。
私はそのゾッとする感覚に耐えられなくて、スマホを傍らに放り投げた。

ああ、気づきたくなかったな。
私の心の、この真っ暗で空っぽの、空洞には。




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