つらいごはん作りもシロさんと一緒なら(「公式ガイド&レシピ きのう何食べた?」より)
日ごろあまりドラマを見ないので、たまに好きな作品があると、現実との境目がわからなくなってしまいます。
「きのう何食べた?」も、そんな作品のひとつ。
よしながふみさんの描かれた原作コミックスは、新刊が出るたびに買い足して全巻書棚に揃えてあるものの、コミックスを読みながら、頭の中でドラマのシロさんとケンジの影を追い、こうなるとどっちが原作だかわかりません。
また、コミックスだと料理のレシピ部分を読み飛ばせず、いちいち脳内で調理してしまうので、気楽に読み進めることができません。読み終わると、独特の疲労感が。
その点ドラマは、ぼーっと眺めていられます。
うちのハードディスクには、数年前の暮れに再放送&スペシャル版が放送された「きのう何食べた?」が永久保存版として録画されていて、もう、ことあるごとに再生されます。
このドラマを見たくなるのは、なんといっても、ごはんを作りたくない時です。
西島秀俊さんが演じるゲイで弁護士のシロさんは、残業を極力避け、仕事が終わるとエコバッグ片手に商店街にある「中村屋」という庶民的なスーパーマーケットに駆けつけます。
冷蔵庫の在庫に思いを馳せながら、その日のお買い得を組み合わせて、ごはん、おつゆ、主菜、副菜をパパッと決めて、帰宅するなり調理を開始します。
同居人は、内野聖陽さんの演じる美容師のケンジ。
ケンジは、帰宅して手を洗うと、「なんか手伝おうか」と声をかけ、簡単な調理をサポートしながら、「今日は◯◯かぁ、楽しみ!」など、嬉しそうな様子を隠しません。
食べ始めても、この味とこの味の組み合わせが絶妙だとか、毎日、言葉を替え、手放しで味を褒めまくります。
それを見て、いつも思います。
普通の家族には多分なくて、この二人にあるのは、「今日、相方が作ってくれたごはんを食べられるこの瞬間」を、奇跡と思えること、じゃないかなと。
「今日煮魚かぁ」とか「炊き込みごはんより、白飯がよかったのに」とか、家族に言いたい放題されながら、それでも毎日ごはんを作るのが現実。
自分が作ったごはんを、家族が毎日ケンジみたいに喜んでコメントしながら食べてくれる図は、全く想像できません。
だって、家族にとって、今日という日は、奇跡じゃないからです。
いや、奇跡なんですけど、奇跡だと意識することなく、のんべんだらりと文句のひとつも言えるのは、実はありがたいことでもあるわけで。
だからこそ、心の中にシロさんの姿を置いて、「今頃シロさんも、いつもの黒いエプロンで、ケンジのためにごはん作ってるんだろうな」と想像するわけです。
このレシピブックが出た時、ドラマの録画もあるし、原作もあるから、レシピは別にいらないかなと、実は思いました。
でも、シロさんのクリスマスの献立とか、ナスとパプリカの炒め煮とか、佳代子さんのぶっかけそうめんとか、あまりにもリピートしたいおかずが多くて、これはもう、買った方が早いや、と、気がつきました。
なんでもない日常を、なんでもないものとして家族が軽んじても、淡々とごはんを作れる人でいるために。
いつも心にシロさんを。