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そこまで興味のなかった沖縄そばを大好きになるまでの話
私にとって旅の目的は何だろう。そう考えると少し言葉に詰まる。
目的地がどこであろうと、結局私は美味しいものを食べることばかり考えているから。
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この夏、約5年ぶりに沖縄へ行った。
前回行った時は友人の結婚式に参列するため。
娘はまだ小さかったけれど、可能な範囲で美味しいものを求め回った。
その娘が小学生になり、自分の主張もちゃんと口にするようになった。
子どもが喜ぶ場所も旅程に挟まなければいけないという条件付きにて、どこまで食を探求できるのか!
ちなみに、家族の要望はこんな感じ。
娘「美ら海水族館へ行きたい、あとは遊びたい」
夫「1回ぐらいは沖縄そばを食べたい」
というわけでこの沖縄旅、まずは沖縄そばに絞って記録しようと思う。
調べたところ、沖縄そば屋さんは昼間のみの営業が多い。しかも、人気店はかなりの行列になるので行くタイミングも重要になる。
空港から車で2時間かかる美ら海水族館を組み込みつつ、私の行きたいお店も随所に挟みつつ。
・旅程に無理なく
・混まない時間帯に行ける
・とびきり美味しい
そんな沖縄そばを求めて旅立ちます。
1. 極上の豚骨出汁スープ『高江洲そば』
那覇空港から車で20分ほどの場所にある高江洲そば。
空港に9時過ぎに着いたので、車を借りてそのままお店へ向かい、10時半には到着。駐車場は1台だけ空いていた。
私たちの初食事@沖縄であり、この日の一食目。
すなわち、遅めの朝ごはん。
こちらは『ゆしどうふそば』が一番人気とのこと。
シンプルが好きな娘は『沖縄そば(小)』
ソーキ好きの夫は『ソーキそば(中)』
迷ったけれど、私は『ゆしどうふそば(中)』を。
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右半分にあるのがゆし豆腐
透き通った茶色のかつお出汁スープが定番だと思っていたけれど、こちらは白濁色。
一口すすると豚骨出汁を感じる。出汁と塩みのバランスがとてもよく、上品な豚骨ラーメンのスープみたい。
噂のゆしどうふ。ふわふわのお豆腐が全身に極上スープを吸い込んでいる。お豆腐を口に含んだ瞬間にそのスープが放出されて、口の中が幸せな海になった。
このスープにして、このゆしどうふあり。とても優しい味わいなのに中毒性がある。
あぁ、思い出しても今また食べたい。
コシのある平打ち縮れ麺はスープとよく絡む。
甘めの錦糸卵は想像以上に良いアクセントで、麺と卵を食べるとどちらの味わいも引き立って最高だった。
ゆしどうふそばには、サイコロ状のソーキ肉。
沖縄そばには厚めカットの三枚肉、ソーキそばには硬い骨の付いたほろほろのお肉が乗る。
甘辛い味付けかと思いきや、とてもシンプルな塩味。
だから豚肉の甘みが際立って、スープとも完璧にマッチしている。
弾力があるのに柔らかくて、噛みしめるたびに旨みが溢れた。
娘は食べた瞬間に、カッと目を見開いて「沖縄そばっておいしいね」と絶賛していた。
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(下)ソーキそば
こうして、夫の要望を満たしただけでなく、沖縄そばに消極的だった娘が大の沖縄そばファンになるという素晴らしいおまけ付きにてミッションクリア。
のはずだった。
でも、この1軒目が素晴らしかったがゆえ
「もっと色んな沖縄そばを知りたい」
私のマニア心に火がついてしまった。
沖縄そばとソーキそばが別物って常識なの?
皆様は『沖縄そば』と『ソーキそば』の違いをご存知ですか?
私は知らなかった。
正確には、以前沖縄へ行った時に調べたはずだけど完全に忘れていた。
これは乗っているお肉の違い。
沖縄そば
三枚肉(皮/赤身/脂身の3層から成るバラ肉)が乗る
ソーキそば
スペアリブの部位にあたる骨付きあばら肉が乗る
ちなみに、この2つに加えて、前述のゆしどうふそばや てびちそば、その他全ての「沖縄名物のそば」の総称も【沖縄そば】という。
【沖縄そば】という大枠の中に、沖縄そばもソーキそばも含まれるということ。
この総称のおかげで私はだいぶ混乱して、両者は同じものを指していると思い込んでいた。
でも、今回初めてその違いを理解して食べたので、私の混乱は完全に解消した。
私はこの旅で、沖縄そばレベルが格段にアップしたのだ。
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2. 黄金色のスープが後を引く『さわのや もとぶ店』
お次は、美ら海水族館がある本部町(もとぶちょう)にて。
もともと、沖縄そばを食べる予定はなかった。
しかしながら「お腹はすいてないけど、沖縄そばなら食べたい」という娘の一言により食すことが決定。
その時ちょうど、もとぶ町営市場にいたのでその付近で探すことに。
超有名店『きしもと食堂』は以前行ったことがあったので、きしもと食堂と目と鼻の先にある『さわのや もとぶ店』へ。
しかし、券売機の前で少し戸惑った。
ソーキそばに種類がある。
『軟骨ソーキ』と『本ソーキ』に分かれているのだ。
そんなの聞いてないよ〜と一瞬焦ったけれど、券売機に写真と説明があったのでなんとかなった。
軟骨ソーキは軟骨までとろとろに煮込み食べられる状態になったお肉、本ソーキは硬い骨付き肉のこと。
(1軒目の高江洲そばで夫が食べたのは本ソーキだったと、この時わかった)
娘は『三枚肉そば』
夫は『軟骨ソーキそば』
私は『本ソーキそば』をオーダー。
他の場所でも色々食べる予定があったので、全員小サイズ。
このお店がまたすごかった。
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スープは透き通った黄金色のかつお出汁。
この美しさからは想像しがたい、何重にも深い味わいが口中にふわっと広がる。
きしもと食堂は最初に甘みを感じるスープでそれも好みだったけど、こちらで初めに感じるのは かつお出汁。その奥からお醤油の塩みや甘みがやってきた。うどんのおつゆにも近いだろうか。
麺はコシのある平打ちストレート。お肉はどれも、甘辛く柔らかく煮込まれている。
これぞ、私のイメージの中にある “ザ・沖縄そば”。
王道でありながら、スープ・麺・お肉のバランスが最高で、シンプルの極みではなかろうか。
しかも、食後に残ったスープの味が少しずつ違う。
三枚肉そばはバラ肉の脂身のおかげでほんのり甘く、ソーキそばは豚骨の旨みが加わっていた。
この味変に感動して、スープを飲み干しそうだった。
来店は土曜の12時ちょっと前。5分程度の待ちで入れたけれど、食べ終わる頃には数組並んでいた。
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木陰で沖縄そば食べているのが可愛い
さて、3泊4日の沖縄旅。
私には行きたいカフェがたんまりあるのに!
ついつい沖縄そばを調べてしまう。
ここまで来たら、もう1軒行ってみよう。
3. 私にとっての集大成『根夢(ごん) 伊佐店』
最終日は沖縄中部・宜野湾(ぎのわん)のホテル泊だったので、その周辺で調査。
この日は日曜。沖縄は日曜定休のお店も多く、それも含めて吟味した結果『根夢(ごん) 伊佐店』へ。
オープンの11時を外すと車を停められないと口コミで見ていたのに、出遅れて11時10分着。広い駐車場はすでにいっぱい。
でも、10分ほど待ったら車が出てきて停めることができた。
その間も、駐車場待ちの車が続々と並んでいた。
店内はとても広い。
娘は一途に『沖縄そば(小)』
夫も一途に『ナンコツそば(中)』
私は『ミックスそば(小)』
ミックスは、三枚肉・本ソーキ・軟骨ソーキが全部乗る。
沖縄そばとソーキそばの違いを知り、本ソーキと軟骨ソーキの違いを学んだ私の集大成オーダーと思っていただければ。
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左が三枚肉、右手前が軟骨、後ろが本ソーキ
こちらも好き通った茶色のスープ。
さわのやよりもさらに、かつお出汁をしっかり感じる。バランスがとても良く、胃に染み入る。
他の2店より青葱のシャキシャキ感が残っていて、良きアクセント。
麺は少し細くて丸いストレート麺、もちもちで歯切れが良い。
3種のお肉。食べる前は軟骨ソーキの軟骨部分が苦手かもと思ったけど、そんなの杞憂だった。
トロッとプリっとして、甘辛いお醤油の味が染み込んでいて、軟骨部分があってこその美味しさ。
本ソーキのお肉はしっかりと旨みがあるし、三枚肉は甘みがあるし。
「みんな違って、みんな良い」の極みだった。
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ほろほろご飯で優しい味付け
沖縄そばの魅力に取り憑かれた
あぁ、満足。心からの大満足。
時間さえあれば、もっともっと探求したかった。
家族3人とも「3軒ともとても美味しかった」は共通意見。
その上で好みを聞いてみると。
娘は1軒目の高江洲そば。
豚骨感のあるスープと塩味のお肉が特に好みだったそう。初めて食べた沖縄そばの感動があまりに強かったと思われる。
自称ソーキ好きの夫は、2軒目のさわのや。
このお店で、自分が好きなのは軟骨ソーキだと気付き、味付けも好みど真ん中だった。葱とスープのなじみ具合も好き。
私は…本当に甲乙つけ難い。
でも、色んなことを理解した上で3種のお肉を食べ比べた幸福感は格別だったから、3軒目の根夢かな。
5年前は娘が小さくて、焦るように食べたからそこまで味わえていなかったのかもしれない。
私自身、沖縄そばをそこまで好きという自覚はなかったけど、今回の旅ではその魅力に家族全員で取り憑かれた。
個人的には、沖縄そばとソーキそばの違いを自分の舌で感じられたことにも充実感を覚えている。
沖縄から帰る道中、夫に聞いてみた。
私「沖縄そばとソーキそばの違い、知ってた?」
夫「知ってたよ。前に来た時に調べたよね」
…フン。
まぁいいや。
旅先で美味しいものに出会えることほど幸せなことはない。
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[Photo : Masayuki Nakano]
高江洲そば
沖縄県浦添市伊祖3-36-2
10時オープン / 日曜定休
店前に駐車場有
さわのや もとぶ店
沖縄県国頭郡本部町渡久地15-7
11時オープン / 木曜定休
少し離れたところに駐車場有
そば処根夢 伊佐店
沖縄県宜野湾市伊佐4-2-14
11時オープン / 定休日は原則なし
店前に駐車場有