エンドロール【ショートショート982字】
「佐藤愛さん、映画のエンドロールに名前を載せてみたいと思いませんか?」
そんなメッセージがいきなりFacebookに届いた。
いかにもあやしいメッセージだ。大方詐欺だろうと思ったのに、返信ボタンを押したのは、私が昔から映画製作に憧れていたからだろう。子供の頃、映画館で観せてもらったハリウッドのアニメーション映画に私は夢中になった。本編が終わって魂を抜かれたようになり、席でエンドロールを見つめ続けた。
相手はハリウッド映画の製作エージェントを名乗った。その説明によると、ハリウッドでは様々な人種の人が映画製作に関わっていないと世間から叩かれる。今回の映画ではアジア人が少ないので、エンドロールに名前だけでも載せたい。適当な風景を撮影した動画を参考資料として送ってもらえば、「撮影協力」として名前を載せる。報酬は出なくて申し訳ないし、逆に仲介手数料が3万円ほどかかるが、やりたいか―
私は悩んだ。3万円というのは普通の会社員をしている私にとっては決して安い金額ではない。でも、ハリウッド映画のエンドロールだ。夢が叶うと思えば安いものなのでは…
私は決意を固め、やりますと返信した。
それから3ヶ月が経った。例のエージェントから、今週末に公開の映画のエンドロールに名前が載るというメッセージが来た。動画を送り手数料を振り込んで、今か今かと待ち構えていた私は、その週末、期待と不安を胸に抱えて最寄りの映画館に出かけた。
映画は感動的だった。私が幼い頃に見たような、観る人を幸せにするアニメーション映画。エンドロールはどうあれ、観た価値があったじゃないかと自分を励ます。
ついにエンドロールが始まった。流れていくアルファベット。ほとんどが海外名である。エンドロールも終盤に差し掛かり、やっぱり騙されたのかなと思った矢先、私は自分の名前を発見した。
「Ai Sato」
本当にあった。私は驚きのあまり目を見開いた―
その詐欺師の手口は、映画に日本人が関わっていると嗅ぎつけると、Facebookでできるだけ多くの同姓同名の人物にエンドロールに名前を載せないかと持ちかけるというものだ。ハリウッドで活躍する本物のサトウアイさんは、自分の名前がそんなふうに使われているとは思いもよらないだろう。この週末、全国の映画館で喜びを噛みしめるサトウアイさんが大量発生することとなった。
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