マウンティング【ショートショート880文字】
「あれー、先輩、その星型のネックレスかわいいですね!」
「えー、これ?彼氏が誕生日に買ってくれてー」
最近、職場の戦いが激化を極めている。女同士の戦い、そう、その名はマウンティングである。
「えー、羨ましいですー!私の彼氏は、私には星みたいな派手なのは似合わないとか言って、こんなシンプルなダイヤのネックレスしか買ってくれなくてぇー」
彼女の胸に光るのは大粒ダイヤモンドのティファニーのネックレス。先輩社員の方は「へぇ、ティファニー…」と顔を引きつらせている。
私を入れて女4人の部署だ。一番上の先輩と一番下の私を除いた、真ん中の二人はマウンティングでバチバチ。私も最初は二人の会話を興味深く傍で聞いていたのだが、最近私にまで矛先が向くようになり、返答に困ることもしばしばである。
そんな様子を見ていた一番上の先輩が「私に任せといて」と言わんばかりの目配せを私にしたと思うと、次の日、輝かんばかりの赤い石がついたネックレスをしてきた。
当然、他の二人はそのネックレスに食いつく。
「え、先輩それルビーですか?大きい…!」
「めちゃめちゃ高そうですよね!もしかしてウン十万とか…?」
「それどうしたんですか?先輩彼氏いないですよね?もしかして自分で買ったんですか?」
「えー、自分でそんな高そうなネックレス買うとかすごーい。」
なかなかの言いようである。「いい加減値段教えてくださいよ!」と言う二人に先輩は笑顔で答える。
「500円」
「へ?」
「だからこれ、ガラスでできてて、500円だよ。」
顔を見合わせる二人組。すると先輩は続ける。
「小学生の甥っ子がね、お小遣い貯めてお祭りの屋台で買ってくれたの。宝物なんだ。」
二人組は「へ、へぇ」「素敵ですね」と顔を引きつらせながら、「トイレ行こうかな」とそそくさと席を立っていった。
その日以降、うちの部署に平安が訪れたのは言うまでもない。後日、その先輩が耳打ちで「あれ、実は祖母の形見だから値打ちもんなんだけどね。流石に500円ではないよねぇ。」と笑いながら言うの見て、この人だけは敵に回さないようにしようと決意したのは秘密である。
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