大きな何かが崩れていく

父は手紙を捨てずに
タオルが入っている棚の引き出しに入れていた。

私はこの引き出しを開けて、
手紙を見た瞬間

これだ!お父さんが読んでた手紙。
ここに全てが書かれている。
見てはいけない手紙。
そんな風に心のどこかで思いながらも

恐る恐る、知ってはいけないことを知ると
どこかでわかっていながら

手紙に手を伸ばし、
四つ折りにされた手紙をゆっくりと開く

この時、私は小学一年生。
難しい感じは読めない。
けれど、読める文字を見るだけで

なんとなく書かれている文字の内容は理解できた。


母が父に書いた手紙。
置き手紙だった。

あなたは知らないと思っているかもしれませんが、
私は全てを知っています。
もう限界です。

そう書かれていた文章を読んだ。

他にもたくさんの文字が書かれていたけれど、
母は、父に対して
不審な気持ちを持っていることは理解した。

そして、もう我慢の限界がきているということを知った。


私はこの時、小学一年生。
この頃の物事の捉え方で、

お母さんとお父さんは喧嘩したんだ。
仲直りしてもらわないと!

そう思った。

仲直りすればいいんだ!!
きっと、そうすれば、もとに戻れる。

お父さんとお母さんが
仲直り出来ないわけがない。

純粋に、ただただ真っ直ぐにそう思っていた。

『お父さん帰ってくる?』

私は毎日聞いた。

聞くのはいつも、おばあちゃん。
母には聞けなかった。

母には聞いちゃいけない気がした。
母に父の話をしてはいけない気がして、

私はなんとなく、母に話すことを避けていた。

『お父さんは今日も向こうのおばあちゃんちに泊まるんやって。』
向こうのおばあちゃんとは、父の実家。

うちは母の実家にみんなで住んでいた。

そう、父は婿養子。
母の実家の家業を継いでいた。

会社の電話番号は覚えていた。
父が仕事中、何度も電話をした。

『お父さん今日帰ってくる?』

何度も何度も、電話をして、
その度に
『お父さん、今ちょっと帰れやんのよ。
お父さんは帰りたいんやけどね。
待っててよ。帰るからね。』

父は私にそうやって電話で話してくれた。

『お父さん、帰りたいけど帰れやんってなんで?なんかあったん?』

おばあちゃんに聞いた。

『。。。』
おばあちゃんは言葉をのみ、

『サンドイッチ食べるか?』
『コーヒーいれちゃげよか?』と


話を逸らす。

『お父さん帰ってくるよなぁ?』

『さぁよ〜。帰ってくるかの。お母さんに聞かなわからんなぁ。』


そう、祖母は私に話した。


きっと、祖母は母に言ったんだと思う。
おまんの口からちゃんと話さなあかんで。と。


ある日の夜。
母が突然ドライブ行こかと言い出した。

二人で車に乗ってマクドナルドへ。

ドライブスルーで注文をして、
お会計をするまでの間に


母から突然こう聞かれた。
『お父さんとお母さん、離婚したら
おまんはどっちについていく?』


私は、とっさに
『どっちも好きやから、どっちについていくとかない。』
『喧嘩したん?仲直りしてよ。』

『おまんは、お父さん、お母さんどっちについていく?』

『そんなんどっちかって選べやんよ。』

そう言って、私は泣いた。

母は、
『お父さんはおまんのお父さんやで。
大好きなお父さんで変われへんからよ。
けど、お母さんは大好きなお父さんとは思えなくなったんよ。
だから、お父さんとはもういれないんよ。
おまんに、こんな話をしてごめんよ。』

そりゃ選べやんよな。ごめんよ。


そう言って、無言で家に帰った。

家に着くと、
ちょっとおいでと私を呼び

久しぶりに膝の上で抱っこさせて。と

膝の上に向き合って座り
母は私を抱きしめながら

『大きくなったなぁ〜。抱っこするの久しぶりやなぁ〜。』
『少しこのままで居させてよ。』といい

私の背中をさすりながら
抱きしめてくれた。


その時、言葉にはならない
母の感情が伝わってきた。

私は、この時思った。

母を泣かせたらあかん。
母に悲しませたらあかん。

私は母の前で泣いたらあかん。


だって、母は
この時私を抱きしめながら、優しい手で背中を撫でながら

泣いていたのが伝わったから。


母の気持ちをこれ以上悲しませたらあかん。
そんな風に思った。

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