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幽霊化代行 墨羅最死強 ~死霊刀と微幽王の世界~1話

プロローグ:『幽霊化代行という仕事』


この世界には、目に見えない存在がいる。
「幽霊」「亡霊」「特霊」──名前はどうあれ、それらは現世と幽冥界の境界に漂い、時に人々の日常を脅かす。

しかし、彼らはただの怪異ではない。未練を残した魂、執念を抱えた存在が、形を成して現れたものだ。そして、それらを視認し、回収し、浄化する仕事が存在する。

それが──幽霊化代行だ。


この仕事に携わる者たちは「特霊十三死団(とくれいじゅうさんしだん)」を筆頭に、幽霊や霊的存在を管理する役目を負っている。そしてその一部には、現世で特例的に活動を許された者たちもいる。

その中の一人、**墨羅 最四境(ぼくら さいしきょう)**もまた、幽霊化代行として現世で活動する人物だった。だが、彼の存在にはどこか異質なものがあった──。

「普通の人間じゃない。お前、何者なんだ?」

何度も聞かれてきた言葉。しかし墨羅自身も、自分が何者なのかを知らない。

ただ一つ確かなのは、彼には“見える”ということ。そして、見えるだけでなく、時折「何かを感じる」ことがあるのだ。

その違和感が、この日、運命のような出来事を引き起こすことになる。
幽霊化代行としての日常が、非日常に塗り替えられる──そんな始まりの物語だった。

1話目:『幽霊化代行、始動』


幽霊化代行──それは、この世界で最も理解されない職業の一つだ。霊が視認できない「ピポット」たちにとって、それはただの作り話や都市伝説に過ぎない。

だが、霊を「見えないだけで感じる」ことができる特異な存在である**墨羅 最四境(ぼくら さいしきょう)**にとって、それは日常だった。


墨羅は、今日も街の巡回を続けていた。彼が「幽霊化代行」としてこなす仕事は、現世に迷い込んだ霊や未練を残した亡霊を適切な形で処理すること。要するに、幽霊たちを成仏させるか、回収して幽冥界へ送り返すのだ。

「……とはいえ、成仏してくれる霊ばっかりじゃないけどな」

独り言を漏らしながら路地裏を覗き込む。昼間だというのに、そこだけ夜のような空気が漂っていた。

そして、その闇の中に……何かがいる。


「おいおい、こんな街中で**境亡者(きょうぼうしゃ)**が出るってのかよ」

そこにいたのは、凶暴化した幽霊の一種、境亡者だった。現世で執着を募らせすぎた結果、霊的エネルギーが暴走し、怪物と化した存在だ。

巨大な腕と異常なまでに裂けた口を持つその姿は、人間だった頃の面影を完全に失っている。墨羅が何度も見てきた「最悪のパターン」だ。


その時、近くにいた一人のピポットが境亡者に襲われていた。
「助けて! 誰か!」
叫び声を上げる少年。しかし、ピポットには幽霊も境亡者も視認できない。ただ圧倒的な恐怖に包まれていた。

「おいおい、マジかよ……こんなときに特霊隊士はいないのか?」

そう呟いた矢先、どこからか声が響いた。


「待てぇぇぇぇ!!」

影の中から現れたのは、特霊十三死団の下級隊士、**伊澤(いざわ)**だった。小柄な体躯と鋭い目つきが特徴の彼は、迷わず境亡者に飛びかかっていく。

「おいおい、突っ込む気か? あれはお前一人で倒せる相手じゃ──」

「やらなきゃこの子が死ぬだろうが!」

伊澤の手には、特霊隊士が持つ霊的武器、**死霊刀(しれいとう)**が握られていた。だが、彼の剣撃は境亡者の分厚い外殻に弾き返される。

「くそっ……!」

境亡者の巨大な腕が振り下ろされ、伊澤の体が地面に叩きつけられた。


墨羅は瞬時に判断した。

「……しょうがねぇ、俺がやるしかねぇか」


その時、彼の目の前に突如現れたのは、幽霊化の儀式を行う特霊隊士の一人だった。

「墨羅……お前、幽霊化してみるか?」

「は? 冗談だろ。俺が幽霊になってどうするんだよ」

「……いや、気になってたんだ。お前の素質、ただの人間じゃねぇだろ」

その言葉に返事をする間もなく、境亡者が再び襲いかかる。


「わかったよ、やってやる……幽霊化ってやつを!」

墨羅の体が淡い青い光に包まれ、次第に霊的エネルギーが実体化していく。そして、変わり果てた彼の姿はこう呼ばれるようになる。

「……俺の名前が変わってやがる?」

彼の霊的存在としての名前は──**墨羅 最死強(ぼくら さいしきょう)**だった。

そしてその手には、幽霊化によって自然に現れた一本の剣。
死霊刀──それは本来、特霊隊士でなければ持てないはずの武器だった。


「死霊刀だと? しかも隊士になる前の幽霊のくせに……!」

特霊隊士の驚きの声をよそに、最死強は剣を構える。

「さて、ここからが本番だ……!」

最初の戦いが幕を開ける。

※本作はオリジナルのストーリーおよびキャラクターで構成されていますが、一部の設定や表現は、既存のフィクション作品をモチーフにしています。
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