「自分の声を聴く」ということ
差別問題にどう立ち向かえばいいのか。考えてみました。
ジェンダー差別は消えない
仲間がやっているpodcast「康太郎雑技団チャンネル」。とあるテーマで、ホストのCOTAと、ゲストの2人の女性が語り合っている。簡単に言えば、ジェンダー差別、女性蔑視についての話だ。もっと大きく言えば、アンコンシャスバイアスが招く様々な差別につながる話。例えば、ちょっとした集合写真で偉い人の横に若い女性が立たせられるとか、飲み会の席では女性が率先して取り分けをするのが当たり前とか。最近は多様性が叫ばれて、強制されることは減ったかもしれないが、表面化していないだけで、もしかしたら思想は変わってないんじゃないか、と思っていたりもする。この問題にどう取り組むか、僕なりに考えてみた。
公共圏と親密圏
ここで1つ補助線を引いてみたい。公共圏と親密圏。公共圏とは、いわゆる制度や政策のこと。国や自治体が担保すべき事柄。それに対して親密圏は、小規模コミュニティや家族関係における営為。いわゆるケアと呼ばれる言葉にしにくく目に見えにくい善意で支えられた関係性。差別の問題を考えるとき、この2つが曖昧に語られていないか、ということを問いたい。例えば、障がいをお持ちの方が感じる差別感、漠然とした生きづらさは、制度の問題なのか、それとも身近にいる家族が自分のことを理解してくれないとか過剰にケアをしてくるなどの問題なのか。
公共圏と親密圏の関係性、それは、親密圏からの声を公共圏が受け取り、よりよい社会をつくるべく努力することなのではないだろうか。民主主義においては、そのように機能するのが望ましい。コロナ禍で公共圏が信用を失い、親密圏の自助努力に偏ってしまっているように、この2つのバランスが崩れることは、社会の不幸なのだと思う。
自分の声が分からない
ではどうすればいいのか。それは、親密圏からの声を届けるということだ。漠然とした生きづらさを悶々と抱えるのではなく、自分はこういう理由で生きづらいんだ、ということを言葉にして発信すること。ひとりひとりの声は小さくても、束になれば公共圏に届くのではないだろうか。
問題は、「自分の声が分からない」ということだ。生きづらさはその人固有のもので、決して一般化されるものではない。先天的なものから、環境要因、偶然の重なりまで、自分でも説明できない生きづらさがある。だからこそ、生きづらさは簡単に解消しない。でも、だからといってそのモヤモヤを内に秘めたり、あるいは別の形で外に出したりしても、社会はそれを受け入れられない。ましてや制度や政策は変わらない。
「憤慨」と「苛立ち」
『疲労社会』(ピョンチョル・ハン)に「憤慨」と「苛立ち」という言葉が出てくる。「苛立ち」は、個別の出来事に対する怒り。例えば、朝の通勤電車で空いた席を横取りされたとか、体調が悪くて病院に行ったのに1時間以上待たされたとか。とても狭い範囲の怒り。それに対して「憤慨」はもっと広い視野で状況全体を見て感じる怒り。もっと根本的な怒り。ピョンチョル・ハンは、現代は「憤慨」を忘れていると警告する。現代社会は、目の前を出来事が猛スピードで過ぎていく。1個1個に「苛立ち」はしても、その根本にある原因を考えたりしない。そうではなく、例えば通勤しなくてもいい社会にできないのか、とか、病院の体制をよりよくできないのか、とか、もっと「憤慨」しなければいけないと説く。「憤慨」がなければ、制度や政策は変わらないと。
自分の声を聴く
問題は、自分の声が分からない、「憤慨」できない、ということだった。そんなとき、どうすればいいのか。まずは立ち止まって考える。「苛立ち」の1個1個にフォーカスして、なぜ自分はそのことに苛立っているのか、それはとても個別的なことなのか、もっと大きな社会的問題をはらんでいるのか。それを考えてみる。あるいは、他の人と話してみる。そうすることで、自分の「苛立ち」が相対化されて、1段階大きな視野で見ることができるようになる。さらには、聴くことのプロに話を聴いてもらう。そうすることで無意識下にあった根本原因に気付くことがあるかもしれない。もちろん、本を読んでみるのもいいだろう。そうやって、自分の声を聴き、自分の声を言葉にすること。他の人に聞こえる声にすることが、「憤慨」となり、「公共圏」に響くのではないだろうか。冒頭で紹介した「康太郎雑技団チャンネル」は、その意味でとても”いい場”なのだと思う。1つのテーマに対して、とことん語り合い、「苛立ち」を「憤慨」に昇華させようとしている。このような取り組みが1つでも多く増えること、草の根の活動が少しづつ増えることが、公共圏に声を届けることであり、制度や政策が変わるきっかけになるのではないだろうか。
spotify「康太郎雑技団チャンネル」はこちら
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