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『本好きの下剋上』ネタバレ感想キャラについて

下記は『本好きの下剋上』ネタバレ感想や推測になりますので、未読の方はお読みにならないようご注意ください。

ヒロイン・ローゼマイン(=マイン)は良きアドバイザーであり、人を育てる言葉の魔術師・そしてトラウマも越えさせる

ロゼマはなんせ超本好きで知識の宝庫、男女の機微には疎いのに他人の感情の変化には敏感で、傷ついている人の心にぴたっと来る言葉をかけてあげることができる、これも一つの見どころ。
早くにはマイン時代、オットーの妻であるコリンナがオットーが自分のために兵士になったことを気に病んでいて、それを敏感に察知したマインの掛けた言葉は「門で思う存分商人してますよ」。

その言葉ですっと気持ちが楽になったというコリンナ。マインに聞くまで誰にも相談できなかったのだね。 貴族院時代では、自分が争いの種になることを恐れたエグランティーヌとアナスタージウスの仲を取り持つことになった直截なアドバイス。 さらにはエグランティーヌと比較されることを畏れるアドルフィーネの気持ちを察知し、人の魅力はそれぞれなのだからと強張る気持ちをあっという間にほぐした。
マイン時代、男性恐怖症であったヴィルマがそのトラウマを越えた最初の一歩は、マインの新しい絵画印刷技術への挑戦からだった。
孤児院に暗い恐ろしい記憶しか持たなかったデリアを救ったのもマインの改革。
孤児院長にセクハラを受けていて隠し部屋に入るのがトラウマだったフランを救ったのもマイン(性格も行動もまったく違う新しい主への忠誠と信頼から。ハッセではロゼマを諫めるために隠し部屋に躊躇いもなく入るという;気が付くと乗り越えていた)。
問題児で人に褒められることがなかったギルを褒めてあげることで信頼関係を築き居場所とやる気を与えた。
貴族院の側近達についても、抜きんでて凄い点がないと悩むコルネリウスにバランスの良さを褒めリーダーとして伸ばし 俯瞰して見る冷静さを持つレオノーラに座学と実践の結びつきに気づかせ伸ばし アンゲリカに憧れるあまり自分の良さを失いそうだったユーディットの得意技を活かすよう伸ばし…
強くなることしか考えず座学で落第しそうになっていたアンゲリカを周囲の側近に協力させることで救った…
などなど、自分の周囲の人間の育て方がともかく上手い。 見た目は子供、頭脳は大人なものだから、貴族としての父になったカルステッドなども妻・エルヴィーラに対しての認識を変えるきっかけの言葉を貰い、夫婦関係が睦まじくなっていく。
フェ様でさえ、ロゼマの言葉でけっこう新たに気づかされることが多かったわけだが(ヴィルフリートについて、勝手にジルと同じように育つんだろうと思い込んでいたのが、親と子は似てるといっても違うんですよとロゼマの言葉で気づかされたり。ジルにちゃんと自分で仕事をさせ、自分の仕事はもっと周囲に振れなど)、ロゼマがそれを必ずしも意図せずとも自身の言動が周囲の人のトラウマを解決しまくっていく。

結局のところ実は最終難関はフェルディナンドであった。

一番でっかいトラウマ・心の闇=自身の存在意義への不審=を抱えていたフェルディナンドを救うのが凛々しいロゼマの言葉と行動であった。
終わってみればむしろフェ様がヒロインなのだ、何度でも救いに飛び込んでくるロゼマは恋に鈍感なヒーローだから。
これがこの物語の肝だった。
振り返って読むとよく分かる、本当にものすごい構築力。 なんせずっとフェ様が自分の望みに蓋をし続けて進むものだから、そして中身が大人でも見た目幼女の本狂いだから最終章になるまで恋愛要素は底流であった。私も最後には二人がだよねえ…と思いつつも。
しかも見た目幼女だから婚約者をヴィルにしても後見人枠でフェ様がそばに居られたというのもあり、その辺も非常に上手い。
ゆっくりな成長の中で徐々に触れ合い方を制限されていくのも。若干シスコン気味のコル兄の「外聞が~~」は特に。
(そういえば、螺旋上にどんどん落ちていくシーンやウサギの案内、急に成長するなどは「不思議の国のアリス」ではある。
いろんな物語の影響があると公式が言っているけども、アリスはもう誰が見てもよく分かる…)

「魔石になるために自分は生まれてきた」、これは名捧げしてくれた側近達にも絶対に知られたくない秘密。
誰かに相談できればトラウマは一つ乗り越える一歩を踏み出すものだ。口にに出すことが本当に大きな壁。

フェ様はロゼマに初めて口にするまで誰にも言えずにいた。この時点で二人の心理的な信頼感の深さも分かる。(もちろん半ば脅しのようにロゼマが無理に聞き出したのだが、その後のぎゅーと言葉にもフェ様はかなり救われていると思う)

そんな闇を心に抱えていたフェ様は、「時の女神のお導きで」「エーレンフェストの利になるから」という理由で自分を救ってくれた先代アウブに感謝と愛を捧げていた。それこそが彼の生きるよすがであったともいえる。
エーレンの利になるために生きる(ジルを支える)のが物語の大半の間、彼の存在意義をどうにかもたせるものだった。
だから彼がロゼマをどれだけ大事に思っていても自分が彼女と結婚することを思い描くことはまったくなかった。

そんな想いには蓋をしていたはずだから、アーレンドナドナがなければ自分の想いに気づきもしていなかった。 殺されるために生まれてきたという闇を抱える彼に(実は何度も)「生きてください!!」と全身全霊をかけて果敢に救いに来た少女。 愛さないわけがない。
物語の最初の方で、平民で身喰いのマインが「自分の思うように生きられないなら生きている意味がない」と言った際に彼はどれだけ衝撃を受けたのだろうと思う。
彼の出生時の秘密が明かされた時に読者はその衝撃を知るのだけど。 手には入らぬ家族の情、彼はどれだけのものを諦めながら生きてきたのだろう。 フェ様視点のSSで、アーレンに命がけで自分を救いに来てくれたロゼマへの自身の想いに気づき、幼い時に聞いた言葉「あなたは望みのままに生きられるのですね」という言葉を思い出し、ロゼマへの自分の想いを叶えることに全力を出していいのだと思った時から彼自身の望み、想いの成就への快進撃が始まる。
この辺りから、物語は一気に実は救われるヒロイン!フェルディナンドの恋の成就にまっしぐらという感じになる。 …全力を尽くして囲い込みにほぼ成功、それなのに、最後の最後でルッツと添い遂げなくていいのか?と震える声で聞くフェ様は本当にどんだけけなげなの、と涙しかない。
読んでいて冷や冷やしたけど本当に良かった。
なんせ相手は恋愛の機微には超鈍感なロゼマだから。 それにしても、ロゼマは言葉の魔術師としてプレゼンが上手く、ダンケルに流行らせてしまった「シュタイフェリーゼより速く」(=シュタ速)などある意味ユルゲンのコピーライターになれるのではないかと思ったりする。

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