おばあちゃんのおひざもと 第18話 魚屋さんでじっと観察
「練習しなくちゃ、私も。」魚のさばき方を覚えようと思って、太海にある魚屋さんに行ったときに、「すみません、魚をさばくところ側で見させて頂いてもよろしいですか」ってお願いして、まな板のすぐ近くで手さばきを観察してね。包丁の入れ方や、骨の出し方とか『なるほど、こうするんだ』って頭に入れてね。アジなんか安いからたくさん買って帰って、家に着いたら忘れないうちにすぐに真似して台所でやってみたよ。そんな風に何度も何度も練習して魚さばきを覚えていった。しょっちゅう練習するもんだから、アジのお刺身やタタキは子供たちの大好物になっちゃった。毎回あの魚屋さんに行くと、買うだけじゃなくて、他のお客さんが買う魚をさばいているところを私が見てるもんだから、そのうち「奥さん、今日はカツオまるまる一匹、さばき方見せようか」なんて言ってもらうようにまでなったよ。
自動車っていうものがようやくここら辺でも走るようになったら、あの魚屋さん、軽トラに魚積んで家まで出張で売りに来てくれるようになってね。まあ有難いことったらないよ。そのうち八百屋さんもトラックに野菜や果物を載せて来てくれるようになった。家に魚屋さんと八百屋さんが週一で来るようになったら、近所の奥さんたちもみんな買いに集まるようになって、そこでようやく世間話もできるようになっていった。井戸端会議ってやつ。女の人は車なんか運転しないから、だいたいの曜日と時間を決めて、お昼すぎの2時、3時ごろかな、定期的に来てくれるようになった。足がない奥さん方には大助かりだったよね。」
*この本は第1話から46話まで、順番に各章の最初の頭文字一音をつなげていくと、あるメッセージ明らかになります。さて、どんなメッセージでしょうか。
ここから先は
かるた小説 ーおばあちゃんのおひざもとー
大正3年、1914年にアメリカに生を受け、22歳までに3度も船で太平洋を横断し日本とアメリカを行き来したおばあちゃん。ロサンゼルスの大都会…
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?