H29.12.6受信料最高裁判決批判(1)
1放送法制についての検討
まず、最高裁は、放送法に基づくNHKに係る制度の概要を、放送法施行前後に分けて示している。
1.1大日本帝国憲法下の放送法制度(以下、「旧法下」)
最高裁は、旧法下では、放送を行っていたのはNHKのみであり、無線電信法2条により、放送の受信設備の設置に主務大臣の許可を要し、放送用私設無線電話規則13条により、放送の受信設備の設置許可を受けるためには、許可願書と共に放送施設者に対する聴取契約書を差し出さねばならなかったとし、許可なく無線電話等を設置した者に対する罰則規定も設けられていたと言う。
これを補足すると、無線電信法2条は、その1号から5号において、船舶の航行の安全のため、電信電話等による連絡ができない地域のため、実験施設のために規定し、6号で主務大臣が特に施設の必要があると認めた場合を規定し、この6号を受けて放送用施設無線電話規則が定められている。この規則は、その1条で「時事音楽其ノ他ノ事項ヲ放送シ又ハ之ヲ聴取スル為施設スル私設無線電話ハ本令ノ定ムル所ニ依ル」とし、2条から12条まで放送事業者について規定し、13条で放送聴取者について規定する。この13条は「放送事項ノ聴取ヲ目的トスル私設無線電話ヲ施設セムルトスル者ハ願書ニ左ノ各号ノ事項ヲ記載シタル書類並相手放送施設者ノ承諾書を添付シ所轄逓信局長ニ差出スヘシ」となっている。
無線電信法2条1号から5号に定められた場合については、直接、法律を根拠とするから受信契約を必要としないことはいうまでもない。大日本帝国憲法下のことなので、現行憲法と同じく扱うことはできないが、放送を行っていたのがNHKしかなかったから、放送を受信したい者とは、当然、NHKの放送を受信したい者ということであり、それ以外の設置用途はないから、無線電信法2条6号に基づいて、契約を強制されても、NHKの放送を受信したい者が自由な意思に基づいて契約するものであり、それに伴って聴取料を支払うことも、受信設備設置者の自由が侵害されることにはならない。放送事業者も、それぞれの地域において放送すればよく、聴取料についても、「放送施設者第十三条ニ依ル私設無線電話施設者ヨリ聴取料金ヲ受ケムトスルトキハ予メ其ノ額ヲ定メ逓信大臣ノ認可ヲ受クヘシ」(規則11条)と、その徴収は任意であり、財源の範囲内での活動をすればよかった。
なお、法制度上は、「相手放送施設者」であり、特定の団体、つまりNHKと契約することという規定にはなっていない。当時、まず、東京・大阪・名古屋の3都市で、各地域ごとに1局の放送許可を予定していたから、特定の団体名を規定する必要がなかったとは考えられる。また、無線電信法6号を根拠として規則が制定されたため、本来の無線電信法の趣旨と異質のものが規制対象となってしまったと思われる。というのは、電波は有限であるから、とりわけ送信者を規制することで、その管理を行う必要があったところに、ただ受信するだけという新たな存在が生まれることとなったからである。
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