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「濃く、苦く、深く~丸福珈琲店小史」

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2020年6月の記事一覧

「濃く、苦く、深く~丸福珈琲店小史」9

「濃く、苦く、深く~丸福珈琲店小史」9

戦後の画期となった新たな支店の開業

 時代は下って、戦後の「丸福珈琲店」の大きな転機となったのは90年代。北浜を皮切りに寝屋川、都島と、初の支店を出店した頃にあたる。折しも、バブル後の不況の時代だったが、「その時に、うちに全体的にちょっとした勢いがあったんではないかと思うんです。なんかそういうノリってあるじゃないですか(笑)」と振り返る、英子氏はあっけらかんとしたものだ。
 それだけを聞くと順風

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「濃く、苦く、深く~丸福珈琲店小史」8

「濃く、苦く、深く~丸福珈琲店小史」8

創業者を支えた夫人の愛すべき人柄

 少年時代の丁稚奉公から戦争を経て、現在へとつながる『丸福珈琲店』の地歩を築いた貞雄氏。その行動の端々に、根っからの商売人、職人気質がうかがわれるが、彼に負けず劣らずの働き者だったのが、なお伊夫人かもしれない。話は少し逸れるが、創業者を支えた夫人についても触れておきたい。
 娘である英子氏によれば、母親を一言で表すなら“純真・無垢”。「今時、どこかにいたらお目に

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「濃く、苦く、深く~丸福珈琲店小史」7

「濃く、苦く、深く~丸福珈琲店小史」7

日本初のエスプレッソコーヒー?

 終戦から、日常を取り戻しつつあった丸福珈琲店。街はまだ復興半ばといった、一九四八年(昭和23年)頃、貞雄氏は大きな買物をした。「先代は何でも第一号が好きでしたから」と言う英子氏に聞くと、意外にもエスプレッソマシンだという。知り合いの商社から話を聞いた貞雄氏は、当時にしておよそ100万円を惜しげもなく投じたのだ。珈琲自体が貴重であり、ましてやエスプレッソなど言葉す

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「濃く、苦く、深く~丸福珈琲店小史」6

「濃く、苦く、深く~丸福珈琲店小史」6

いち早い復興を支えた、現金払いのモットー

 一九四九年(昭和24年)、難波に珈琲店「オランダ」を創業し、以前は喫茶学校の講師も務めていた山田哲夫氏は、かつて貞雄氏に焙煎などの相談を受けていたという。「人の言うことを率直に聞いて、すぐ実行に移す人やった」と、当時のことを記憶している。しかし、それ以上に貞雄氏らしい逸話が、当時、珈琲豆の卸もしていた「オランダ」に豆の買付けに訪れた時だった。「全て現金

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