「マゾ堕ち」1

「…さっぶ」

12月。
さすがに寒いな。

なぜ年末になると街行く人は溢れるのか。
普段お前達はどこにいる。
少なくなった喫煙所でタバコを吸いながら、夜の街を眺める。

「おーいたいた!おっ待たせー!」

「遅いっすよー…タバコ切れるかと思いました」

元気に遅刻してきたのは、昔仕事で一緒になったことのある、あまねさん。
俺より5つ上で、最近は物書きをしているらしい。
今日はあまねさんに頼まれ、SMバーの取材に同行することになった。
俺は記録、カメラの役割。
仕事柄慣れていることもあり、俺に連絡がきたようだ。

「今日行くとこ、事前にアポはとったんだけど飲みの席だったから先方も覚えてるか不安なのよねー」

あまねさんはダボっとしたMA-1のロングコートに、マーチンのブーツを履き、夜の繁華街をガシガシと進んでいく。
出会った時は仕事ということもあり、もっとシックな格好をしていて、それが凄く女らしく似合っていた。
でもその後すぐに、打ち上げで飲みに行く機会があり、今のような私服で来た時はイメージが違い、驚いた。
男勝りな性格で、その日も数人で朝まで飲み明かし一気に距離を縮めた。
だが、その後もそれ以上になることは無く、今日久しぶりに会えるとわかった俺は、密かに喜んだ。

「あらー、いらっしゃ~い」

店のドアを開くと、店内は赤と黒で統一されていて、別世界にでも来たような異様さを放っていた。

「れいママーこの間はありがとうございましたー。今日も取材を受けていただけて本当に助かりましたー!あ、こいつは今日一緒に取材させて頂く広瀬です、仕事仲間のような男友達でーす!」

「あ、本日はよろしくお願いします。自分は記録とカメラをやるんで、撮影していい範囲とかあとで確認させてください」

挨拶を早々に終えカウンター席に着くと、飲み物を注文した。

「私はビールで、広瀬もビールだよね?あと、よかったられいママも何か飲んでください!」

「あら、ありがとう。そうしたら私のお気に入りのシャンパンがあるから、みんなで乾杯しない?」

今日って…仕事だよね?
俺はてっきりノンアルで、決まった時間取材して、終わったらすぐ引き上げるつもりでいたぞ。
…まぁ、ノリノリな女性二人を前に…うん、黙って身を任せよう。

「かんぱーい!」

いただいたシャンパンは本当に美味しく、夜の繁華街の味に酔いしれた。

「それで、れいママがプレイする時のよく使う道具を教えてほしいんですけど…」

シャンパンを1本開けた所で、いよいよ取材は始まった。
一度始めてしまえば、ちゃんとしている。

俺は取材をしている風景を数枚撮ると、店内に置いてある道具の写真をとるため、ウロウロと歩き回った。

うわぁ…すげぇなこりゃ。
何の時に、どこに使う道具だ?
ノーマルなSEXを好む俺には到底理解不能な品々だった。

「ちょっとー広瀬ーちょっとこれ見てーーー!」

あまねさんの声に振り返ると、いつの間にか着ていた服が変わっていた。
服というか、SMの女王様みたいな…黒いピチっとした…これはボンテージ?っていうのか。

「どう?かっこいいでしょ」

あまねさんは自慢げにポーズを取ってみせた。

「…いやいや、なんであまねさんが着てんすか…」

あまねさんのいつものノリ。
だから俺も、いつものように突っ込んだ。

「ママが着てみてもいいよって言うからさ~なんだよ一言ぐらい褒めろよ!」

俺は呆れて見せながらビールの続きに口をつけた。

あまねさんとママは取材そっちのけで、SM道具を前にキャッキャと盛り上がっている。
まるで可愛いスイーツに盛り上がる女子だ。

もう取材も終わりなら帰っていいかな…
そんなことをぼんやり思っていると、あまねさんが近づいてきた。

「ねぇ、広瀬…これ、どう?」

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