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「その先」14
初恋のような期待も、苛立ち混じりの見切りも、やっぱり気になる携帯の確認も。すべてが静かに通り過ぎていった。諦めよりも無意識が大半を占め出したある日。
携帯はその時を迎えた。
「おー…俺だ。 お前今日仕事は?」
「…え? どなたですか?」
「俺だよ、もう忘れたのか?」
「…アサクラさん?」
「そーだよ、冷たいやつだなぁ」
世間はランチタイムが終わる頃。 私は一人部屋の中、もう一眠りしようかと毛布を抱きしめた時だった。
生活を妨げないようサイレントにしている携帯が、無視できないほどチカチカと光るのを発見してしまった。 私は知らない番号からの着信も一旦は出る。好きでそうしているわけではないが仕方ない。だってそれが自分の給料に繋がる商売ですから。自分で決めたルールだが、今日ほど守っていてよかったと思ったことはない。
「冷たいって…私アサクラさんの番号知らないですから。しかも連絡全然くれないし」
「おー悪かったな、それより仕事は? あんのか?」
「…出勤ですよ、普通に」
「何時までに店行きゃいいんだ?」
「…七時ぐらいですかね」
「よし、じゃー飯食いに行くぞ」
明るい日中に不釣り合いなその声は、ぶっきらぼうに私をご飯に誘い出した。 自宅の最寄り駅を聞くと、『十六時な、そこにいろよ』と電話が切れる。
二日連続で会い、別れ際にご飯に誘われた。番号を渡してかれこれ三週間。前触れなく訪れた着信は、要件だけ伝えるとあっけなく切れてしまう。
一体今のは何だったんだろう。
もう一度携帯画面を開き、着信履歴からアサクラさんの番号を確認する。当たり前だが、初めて見る馴染みの無い数字の羅列。 何度も確認した着信履歴。この番号が入ってくる予定だったのか。 私は抱きしめていた毛布を股に挟んだまま、間違えて折り返してなんかしまわぬよう、慎重に電話帳へ登録をした。
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